メンバーとのコミュニケーションを
根幹から壊すものとは?
もちろん、このような上司ばかりではありません。
正反対の上司もいました。例えば、Bさんという直属の上司。あるとき、Bさんに連れられて、役員のところに直接プレゼンしに行ったのですが、私の作成した資料に間違いがあることを厳しく指摘されたことがあります。Bさんの指示に沿ってつくり、そのチェックも受けた資料でした。
だけど、Bさんは、「お前は何をやってるんだ?」と私をなじり、「だから、これじゃダメだと言っただろ?」と嘘を交えながら、「自分は被害者」という立ち位置を演出しようとしたのです。
こういうのは“上司あるある”で、慣れっこになっていましたから、いちいち腹を立てるまでもない出来事ではあります。
だけど、一度でも、そういう姿を見せた上司に対しては、心のなかで「そういう人なんだな……」と見切りをつけざるを得ません。そして、そのような上司が何を言おうが、私の心にはまったく響かない。コミュニケーションが根幹から崩れ去ってしまうわけです。
ビジネスパーソンであれば誰でも、こうした経験をしてきていると思います。
そして、Aさんのような管理職と、Bさんのような管理職の、どちらがマネージャーとしての力を発揮できるかは明らかだと思います。
Aさんのように、メンバーの失敗をカバーしたうえで、励ましてあげる管理職は求心力を身につけますし、Bさんのように、感情的に責め立てたり、ましてや、見苦しく「自己保身」を図ったりすれば、それまで積み上げてきた「信頼関係」というマネジメントのインフラは完全に崩壊します。
このように、メンバーが失敗をしたり、トラブルを起こしたときに、どのように振る舞うかは、まさに管理職としての命運を左右する決定的な瞬間だと考えておく必要があるのです。
「トラブルの芽」が小さいうちに、
報告してもらえる関係性を築く
そもそも、そのような局面でメンバーを責め立てることには、まったく合理性がありません。
例えば、メンバーが顧客とトラブルを起こしたときに、メンバーを責め立てたところで何か意味があるでしょうか? トラブル対応はスピードが命です。初動が遅れれば遅れるほど、打ち手がなくなっていきますから、1秒でも早くトラブル・シューティングに取り掛からなければなりません。メンバーを責め立てる時間はムダでしかないのです。
もちろん、問題が発生した原因を特定して、再発防止策をメンバーと共有する必要はありますが、それは、問題が解決したあとに行うこと。それよりも、とにかくすぐにトラブル・シューティングに移行することが大切なのです。
それだけではありません。
メンバーを責め立てるようなことをすると、より深刻な問題を生み出します。
なぜなら、意味もなく責め立てる管理職の姿を見たメンバーたちは、それ以後、トラブル情報をできるだけ報告するのを避けようとするからです。
これが大問題を生み出します。どんなに誠実に仕事に取り組んでいても、トラブルは避けがたく発生するものです。重要なのは、トラブルの芽が小さいうちに組織的な対応をとること。ところが、メンバーがトラブルを隠そうとすることによって、水面下でトラブルはどんどん大きくなってしまいます。そして、メンバーが抱えきれなくなったときに、問題は噴出。組織に大きなダメージを与える結果を招くのです。
これは、マネジメントとしては最悪の事態です。いえ、マネジメントが崩壊しているからこそ、このような最悪の事態が発生してしまうというべきでしょう。まさに、管理職として失格と言わざるを得ないのです。
だから、私は、メンバーから「ちょっとまずいことがありまして……」などと、ネガティブなホウレンソウをされたときには、冷静に話を聞いたうえで、必ず、「すぐに報告してくれてありがとう」などと礼を言うようにしていました。
そして、状況をしっかりと把握したうえで、メンバーとともに対応策を検討。すぐさまトラブル・シューティングに取り掛かりました。もちろん、私が担当している部署の問題の最終責任は、すべて管理職である私にありますから、上層部に報告するときにもそのスタンスを徹底します。そうして、しっかりとトラブルを解決することができれば、メンバーからの信頼はさらに厚いものになっていますし、「こういう上司であれば、困ったときにはすぐに相談したほうが得だ」と思ってもらえますから、ネガティブ情報もどんどん上がってくるようになります。ますますマネジメントがしやすくなるわけです。
これが、リモート・マネジメントで大きな力を発揮してくれます。
リモート・マネジメントを成立させるためには、メンバーが積極的にホウレンソウをしてくれることが不可欠。そのために最も効果的なのは、メンバーが起こしたトラブルに、管理職が正しく対応すること。その姿をしっかりと見せておくことで、メンバーとの関係性は劇的に深まるのです。その意味で、管理職にとってトラブルはチャンスだというべきなのです(詳しくは『課長2.0』をご参照ください)。