管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。
茶道が教えてくれる
「1on1」に臨む心構え
リモート・マネジメントに「1on1ミーティング」は不可欠です。
ご存じのとおり、「1on1」とは、管理職がメンバーの育成やモチベーション向上のために、定期的に行う個人面談のこと。リモート環境下ではメンバーとのコミュニケーションが希薄になりますから、この「1on1」で定期的なコミュニケーションを確保することは非常に重要なことだと思います。
「1on1」は単なる業務連絡をするような場ではなく、相手の気持ちに寄り添う繊細なコミュニケーションが求められる場ですから、できれば、非言語的な情報もやりとりできるリアルな場所で、直接向き合って行うのがベストではあります。
とはいえ、リモート環境下ですべての「1on1」をリアルで行うのも無理があるでしょうから、基本的にはWeb会議アプリを使って行い、月に1回程度はリアルの場で行うなどといった工夫をするといいでしょう。
とにかく大切なのは、「1on1」を実施すること。管理職とメンバーのコミュニケーションが希薄になれば、マネジメントなどできるはずがありませんから、すべての業務のなかで「1on1」の時間を最優先で確保するくらいのつもりでいるべきだと思います。
ただ、「1on1」を“やればいい”というものではありません。
むしろ、メンバーと一対一で向き合うわけですから、下手なことをすればメンバーに嫌悪感を抱かれ、かえって心理的距離を遠ざけてしまうことすらありえますから、十分に注意をする必要があります。
例えば、管理職が、なんとなく偉そうな感じでどかっと椅子に座って、いきなり仕事の話を始めたりしたら、どんなメンバーも「なにか責められるんじゃないか」と身構えて、心を閉ざしてしまうでしょう。それでは、「1on1」は成立しません。
だから、私は、茶道でお茶室に入るときのような意識で「1on1」に臨むようにしていました。お茶室の入り口は非常に狭く作られていますが、それは腰に刀を差したまま入れないようにするためです。つまり、お互いに武器を持たずにお茶室に入ることによって、安心して対話ができる環境を作り出しているわけです。
これは、「1on1」も同じです。
メンバーにとって管理職は人事評価権限という武器をもつ「権力者」であり、一対一で向き合うだけで多少なりとも緊張を強いる存在です。その緊張を解いてもらって、安心して対話をしてもらうためには、管理職のほうから「刀」を置いてこの場に臨んでいることを示す必要があるのです。
そのために、私は、「1on1」の前には心を落ち着ける時間をもって、明るく穏やかな気持ちで向き合うように心がけていました。「1on1」は管理職のための場ではなく、メンバーのための場です。あくまで仕事の一環ですから、心地よい緊張感は必要ですが、メンバーがなんでも安心して話せるような、ニュートラルな雰囲気をつくることを意識しなければならないのです。
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務