「聞いたら答えてくれる」と考えるのは、
単なる管理職の甘えである

「1on1」の主役はメンバーです。

 管理職が言いたいことを言う場ではなく、メンバーが心のうちに秘めている思いを話してもらう場なのです。そして、そのメンバーの思いに寄り添いながら、彼らのモチベーションを高め、成長をサポートする手立てを見出していくことが求められているのです。

 とは言っても、「最近、どう?」「元気?」「なんか悩みある?」などと一方的に聞いても、メンバーが心を開いてくれるとは思えません。信頼関係ができていないのに、そんな聞き方をして、本音で悩みを打ち明けてくれることを期待するのは、管理職の甘えにすぎません。

 聞きたいことを聞くのが管理職の仕事ではなく、本人が話したいことを話せるようにするのが管理職の仕事なのです。そもそも、メンバーは悩みを打ち明ける義務などありません。聞いたら答えてくれると期待するのは、管理職の単なる傲慢にすぎないのです。

 だから、私はまず、自分のことを打ち明けるようにしていました。

 ただし、ただ単に打ち明ければいいわけではなく、重要なのは「何」を打ち明けるかです。ここで、私が意識していたのは「7:3の法則」です。これは、私が勝手に命名した法則ですが、「1on1」で話題として持ち出すのは、日常の話が7割、重たい話が3割くらいのバランスがベストだという法則です。10回の「1on1」で7回は、「昨日こんな本を読んで、こんなふうに思ったんだよ」「先週見た映画が……」「〇〇の新曲の歌詞がいいよね? 特に△△の部分とか……」といった話題を持ち出して、自分の意見や感想を伝えてみるイメージです。

 軽い話題のほうが相手も話に乗りやすいですし、そうした身近な事柄に対してどう思うかを伝えることで、自分の価値観などを理解してもらうきっかけにすることもできます。

「聞き出そう」とするから、
メンバーは心を閉ざす

 そして、徐々に心理的な距離を近づけながら、10回に3回くらいは、少々重たい話もしてみるといいでしょう。

「自分はこんな思いでこの会社に転職した」「管理職としてこんなチームにしたいと思っている」「こんな悩みをもっている」など、「1on1」のような場でなければ、普段はなかなか話さないようなことを手短かに話すのです。

 反応は人それぞれです。

「そうですか。管理職もいろいろあるんですね。いや、実は、私もですね……」などと内心を打ち明けてくれる人もいれば、特段の反応を示さない人もいます。それでいいのです。そこで、「君は何かない?」などと要求しても、相手は押し付けがましいと思うだけです。

 そんなときには、「これから一緒に仕事をやっていくうえで、お互いのことを知っておいたほうがやりやすいと思うから、少なくとも、僕のことを知っておいてもらえるとありがたいと思ってるんだ。聞いてくれてありがとう」と遠慮がちに付け加えるようにしていました。

 大事なのは聞き出そうとしないことです。

 それよりも、「こんな話を自分にしてくれるということは、自分のことを信頼してくれてるってことかな」と思ってもらうことに意味があります。そのためには、毎回軽い話ばかりしていても、本当の意味で信頼はしてもらえません。「7:3」を意識しながら、3割くらいは重いテーマについて、率直な思いを打ち明けることによってこそ、メンバーも心を開いてくれる可能性が生まれるのです。そして、相手が信頼感を持ってもらえるようになれば、いずれ心に秘めている思いを打ち明けてみようと思ってくれるはずです。その時が来るのを、待てばいいのです。