目立たない人の中にこそ、自己実現に向かっている人がいる

 肩書や地位によって目立っている人よりも、むしろ人目につかない無名の人々の中にこそ使命感の持ち主が潜んでいるとして、神谷は小中学校の先生、僻地の看護師、特殊教育の担い手などを挙げている。

 有名になることや出世すること、もうけることを目指して世俗的に成功している人よりも、このように自分以外の何かのために頑張っている人の方が、自己実現の道を歩んでいると言ってよい。

 電車の運転士も、駅員も、自分が輝こうなどと思って働いているわけではないだろう。だが、どんなに眠くてもちゃんと起きて出勤するのは、生活のためだ。そして、生活のために頑張る運転士や駅員がいなければ、電車を利用する人々の暮らしが成り立たない。そうした使命感が、つらい労働に耐える力となるのだが、その中で人間的に鍛えられ、より大きな人間へと成長していける。

 街のパン屋さんは、パンを焼くためにまだ日が昇らない時間に起きて作業しなければならず、そのために多くの人がテレビや一家だんらんを楽しむ時間に寝ないといけない。しかし、自分が精魂込めて焼いたパンを楽しみに買いに来てくれる人がいるという思い、そうしたお客さんの食生活を支えているといった使命感が、きつい仕事を続ける原動力となり、その中で人間的に鍛えられ、心が成熟していく。

 農業従事者も、漁業従事者も、スーパーの店員も、教師も、医師も、看護師も、自分が輝こうと思って仕事をしているわけではない。生活のために、あるいは使命感に駆られ、どんなにきつくても頑張っているのだ。

 そうした動きを通して、心が成熟し、能力開発も進む。それが自己実現への道ということになる。