五輪選手を支えたスポーツ医が推薦、健康寿命を延ばす運動法「3つの基本」Photo:PIXTA

いつまでも元気に運動を続けるには、筋力維持が大切だ。東京五輪で選手をサポートした経験を持つ順天堂大学大学院医学研究科特任教授の齋田良知医師は、「コロナ対策で長い間巣ごもりをしていると運動量が減り、筋力は落ちている。久しぶりに張り切って運動をするとケガをしやすい。ケガを防ぐには3つの科学的なアプローチを実践してほしい」という。アスリートでなくても実践できる、3つのケガ予防法について伺った。(聞き手・構成/医療・健康コミュニケーター 高橋 誠)

金メダルをサポートした治療と科学的メソッド

 2021年の東京オリンピックはコロナ感染拡大のなかで開催され、記憶に残る大会となりました。私も晴海の五輪選手村に出向き、選手とスタッフの医療サポートをしました。私が治療してきた選手の1人がオール一本勝ちで女子柔道金メダルに輝いたときには、選手の努力を近くで見ていた立場として感動しました。

 私の専門は、関節痛やスポーツ外傷の治療です。関節痛やスポーツ外傷の新規治療「多血小板血漿(PRP)」注射を駆使した治療と、リハビリや運動へのコーチングの2本柱となります。

 実は、金メダルを獲得した選手のようなトップアスリートだけではなく、一般の中高年の患者さんにも共通しており、スポーツサイエンスを駆使した科学的メソッドで「ケガをしない」「ケガからの早期回復」を目指しています。

 治療した選手の金メダルもうれしいですが、一般の患者さんが元気になる姿を拝見するのも同じようにうれしいものです。

 私はイタリア留学中に、多大な影響を受けたドクターと出会いました。UEFA(欧州サッカー連盟)の医学ドクター、ジャン・エクストランド氏(スウェーデン)です。

 エクストランド氏は「ケガの予防のためには大きな視野に立って、スポーツ選手に関わる全ての関係者が協働すべきである」をモットーに、ヨーロッパチャンピオンズリーグのインジャリー・サーベイ(ケガ発生に関するデータを継続的に収集、分析、解釈、情報提供する活動)を約20年前から実施していました。

 練習の負荷とケガの相関関係を分析し、ケガをしないような適度な負荷(運動内容、運動量)やケガのリスクを高める要因について選手や指導者に提案するのです。

 私がエクストランド氏のグループのリサーチ結果とスポーツサイエンスの考え方を参考に、今自分たちができることをアレンジして行っている「ケガの予防の基本」は3つあります。臨床現場の経験から、この3つの基本は、何らかの運動をしていらっしゃる全ての皆さんのケガ予防にそのまま当てはまります。

 いわば、医学の世界でいうゴールドスタンダード(過去の医学的研究や経験から、その疾患の治療法として最善と認められ、専門医により最も広く行われている治療法)といったところでしょうか。以下、詳しくご紹介します。