ポストコロナの新世界 公益資本主義Photo:Bulgac, _human, egal/gettyimages

10日31日は衆院選の投開票日だ。岸田新内閣が国民の審判を受ける。岸田文雄首相が唱える「新しい資本主義」とは何なのか。具体像はいまだ見えないものの、国民所得を増やし、中間層を厚くするという主張は、2000年代後半に提唱された「公益資本主義」に通じるものがある。『ポストコロナの新世界』#10では、公益資本主義の提唱者である原丈人・アライアンス・フォーラム財団会長に、岸田首相との関わりや公益資本主義の視点、具体的施策について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

米国に追随した株主資本主義は
日本国民を豊かにしなかった

――岸田文雄首相が「新しい資本主義」を唱えています。所得を増やす、中間層を分厚くするなど、原丈人会長が唱えてきた「公益資本主義」と重なる点が多くありますね。

 岸田首相が外務大臣だった頃、私は内閣府参与でした。その時、公益資本主義に基づいたアフリカやイスラム諸国などの開発途上国での活動を私が伝えたのです。岸田氏は、健康で教育を受けた豊かな中間層を作る活動にいたく感動してくれました。

 その後、外務大臣を退任して自民党政調会長だったときに、「世界中で中間層が減少している。日本においてもその傾向がある」と話したこともあります。

――2000年代後半から公益資本主義を主張しています。

原丈人・アライアンス・フォーラム財団会長はら・じょうじ/アライアンス・フォーラム財団会長、DEFTA Partners グループ会長。1952年、大阪生まれ。81年に米国初の光ファイバーディスプレー装置開発メーカーをシリコンバレーで起業。84 年デフタパートナーズを創業、情報通信や半導体技術分野、創薬のベンチャー企業への出資と経営を行う。デフタパートナーズ創業と同時に、アライアンス・フォーラム財団をスタンフォードで創立し、栄養不良改善や金融制度改革や貧困層の自立化のための事業を行う。内閣府参与、政府税制調査会特別委員などを歴任。著書に『21世紀の国富論』、『「公益」資本主義』など。

 その頃から公益資本主義に向けた動きが日本で広がればよかったのですが、そうはなりませんでした。民主党政権時には新自由主義的な動きが非常に加速し、第2次安倍政権下でも新自由主義の立場を取る政治家や学者の方がいました。

 公益資本主義において、会社は社会の公器です。「社中」と言っていますが、社員や顧客、仕入れ先、株主、地域社会、地球など会社を支えるあらゆるメンバーに会社の利益を分配します。一方で、新自由主義につながる株主資本主義では、会社は株主のものです。

 13年の経済財政諮問会議で、私は公益資本主義の考え方を活用した分配と成長を提案しました。ですが14年、公益資本主義ではなく株主資本主義に基づき、株主の利益を最大化させるコーポレートガバナンスコードが作成されました。

「米国は成長し、日本は停滞しているから、米国のように政策を動かすべきだ。そうすれば日本国民は豊かになる」。株主資本主義を信じる人たちはこう主張してきました。でも現状を見れば分かるように、そうはなっていません。