原理・原則を重視する「武蔵」のサイエンス教育の凄み(1)雨天時にはドームが自動で閉まる天体観測室。左が天体、右が太陽黒点の観測用 (2)1932年から続いている太陽黒点観測の記録 (3)屋上に出なくても雲量を観察できるドーム状の気象観測窓も (4)教員手作りの衛星時刻取得装置 (5)(6)観測ロボットや露場にある左側の百葉箱からは随時気象データが送られてくる。右側は旧来のまま授業で使用
拡大画像表示

コンセプトづくりに手間暇をかける

――建物案内図を見ると、この新校舎は既存のものよりもだいぶ大きいようです。造るきっかけは何だったのでしょう。

島崎 学園が2022年に創立100周年という節目を迎えます。次の100年間に何をやっていくのか、「新生武蔵」としてのグランドデザインを作るという目的が背景にありました。理科に関する新しい建物はしばらく造らない、という覚悟の元に取り組みました。

――おカネがかかりますものね。いつ頃から高中の建築委員会は始まりましたか。

島崎 この建物に関する委員会が正式に発足したのは2011年のことです。15年に三菱地所に基本設計をお願いし、16年7月の準備工事から始まる設計監理は、子会社の武蔵エンタープライズが行いました。施工をお願いしたのは清水建設です。17年12月に竣工しました。

――先生が委員長になったのはどういった経緯からですか。

島崎 実家が建設関係なので、中学生の頃から現場に出入りしていましたし、建築設計の図面がそれなりに分かるということもあったのかなと思います。

 現在はテニスコートになっている東門から入ってすぐの左手には旧理科棟が、そのさらに南には校倉造りの標本庫などがあり、右手には数学研究室などが入った事務棟がありました。これらの古い建物を壊した後、どのように新しい建物にその機能を収容していくのか。敷地内全体を俯瞰的にとらえ、動線から教室配置を考える、複雑なパズルを解くような難しさがありました。

 武蔵では3大行事といって、文化祭に当たる記念祭、体育祭と強歩大会がありますが、生徒が情熱を傾けて準備する記念祭に大きな影響がないように、ということも3年間にわたる工事では考えました。もっとも、やっと完成形となるときに新型コロナ禍の影響で、第97回記念祭は中止となってしまったのですが。

―――“理科・特別教室棟”となっているのにはそうした事情があったのですね。

島崎 このプロジェクトを知ってもらうという目的も含めて、高中建築委員会には理科以外の各科や事務の職員などからも最低1人ずつの参加をお願いし、延べ20人ほどが関わりました。できるだけ委員の出入りもと考えましたが……。

――新しく加わり、それまでの経緯を知らない人から、“そもそも論”が出たりしますよね。