原理・原則を重視する「武蔵」のサイエンス教育の凄み(1)武蔵の象徴でもある濯(すすぎ)川の流れ。江戸時代に造られた千川上水の分水が農業用水に利用されていたが、いまは構内で水が循環している (2)授業でも活躍する草木が川沿いにいろいろ植えられている (3)植物名とQRコードの表示も
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構内を流れる濯川を主役にした配置

島崎 建物の計画では、やりたいことをいろいろと詰め込んでいったのですが、全体を見渡したとき、抜けている大事な視点に気付きました。それは、校舎や構内は子どもたちの生活の場でもある、という点です。そこで、もう一度コンセプトづくりからやり直すことになりました。

――そのための時間が結構かかったのですね。

島崎 屋外の温水プールは維持費が結構かかるので、当初の計画では地下に温水プールも盛り込まれていました。

――武蔵は水泳(水球)部が強いですものね。結局、プールは……。

島崎 なくなりました。温水プール建設の募金まで行った水泳部のOBからはお叱りを受けています。複数あった当初案の一つには、学園キャンパス内の一番高い建物に合わせた7階建ての大学との共用施設というものもあったのですが、練馬区の条例(20メートル高さ制限)が計画途中で施行され、最終的に4階建てとなりました。

――新校舎が建っているのは濯(すすぎ)川に面した一画ですね。

島崎 以前は軟式テニスコートや部室棟、生徒用駐輪場がありました。これらを別の場所に動かすことと、植栽をどうするかも複雑なパズルの一部でした。旧理科棟裏の原生林には生徒や生物の先生のこだわりもありますし。

――川沿いには草木がいろいろ植えられているようですね。

島崎 生物の授業はちろんのこと、古典や歴史で出てくるようなものを実際に目にできるよう考えられています。

 毎年春になると新入生の誰かがこの川に落ちるのですが(笑)、タヌキの親子もこの辺りに住み着いているので、赤外線カメラで観察し、フンを採取して何を食べているのか調べたりもします。川沿いには遊歩道が設けてあったので、これを生かして明るい場所にしようと整備しました。

 新校舎では、この濯川をメインに据え、さまざまな場所に対話の空間をつくるような計画にしました。高中の基本的なコンセプトに、「学びの水脈と対話の杜」を掲げてありますし、校歌に当たる武蔵讃歌の終わりは「まなびの水はとこしえならめ」というように、“水脈”にはこだわりがありますので。