ビジネスモデルのイノベーションや組織変革が求められるいま、企業経営の任に当たるのはだれにとっても難しい。実際、方法ははっきりしないし、変革の多くは失敗している。経営者は時節の不運を嘆きたくなるかもしれない。しかし、忘れてはならないのは、どこの国、いつの時代にも「個別の事情や特殊性」はあるということだ。ワールドクラスも、大きな環境変化を経験し、それを乗り越えて、現在がある。では、日本企業の現状はどうか。世界水準の経営に追いつく可能性はあるのだろうか。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)
日本企業の“気づき”のきっかけ
この連載で紹介してきたワールドクラスには、共通する経営の型が見られます。それは、「多様な知を取り入れて世界規模で事業を展開していく以上はこうならざるをえない」という、いわば必然の型です。
ですから、本気でグローバルで戦うと決めたなら、まずは「ワールドクラスの経営の型」を理解し、自社に実装しなければなりません。その上で、それをどう運営するかには企業ごとにある程度の「幅」があって当然です。
ワールドクラスは、これまで大きな環境変化を経験し、それを乗り越えて、現在があります。一方、グローバル経営に後れを取るといわれる日本企業ですが、一部に変わり始めている企業があります。
今回は、その「気づきのきっかけ」を見てみましょう。
海外企業の買収が契機となる
海外企業のM&Aは、日本企業が成長に挑むための1つの手段として定着してきました。日本企業同士のM&Aよりも金額規模の大きな案件が多く、現在では、毎年数百件が成立しています。残念ながら、失敗例も多いのですが、その大きな原因としては、M&A=戦略となっており、本来は戦略を実行するための手段であるはずのM&Aが目的化してしまっていることが挙げられます。
また、買収した日本企業の側に「これに合わせろ」という世界標準となる確固たる基準がないために、PMI(買収後統合)がうまくできないということもあります。
PMIには、価値観、マネジメントや業務オペレーションに関するポリシーやプロセス、ITシステムなど、ソフトからハードまで、さまざまなものが含まれます。マネジメントについては、被買収企業という「会社」単位で残すのではなく、買収企業の事業の一つ、または一部として取り込みます。
スタッフ機能についてはより厳格に、ファイナンスやHR(人事)といった機能軸でレポート・ラインを通す形に組み替えられます。そして、業務オペレーションは、自社のプロセスとシステムを被買収企業に導入するのが一般的です。これがうまくいくかどうかで、M&Aの成否は大きく左右されます。