リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

部下が疲弊していく「隠れ熱血リーダー」の問題点Photo: Adobe Stock

部下のやる気は「火炙り」では高まらない

 前回までは、「熱量の低い部下に働きかける」タイプのリーダーシップが、ハラスメントやリモートワーク、VUCAといった環境変化の結果、ある種の機能不全に陥っている可能性について語ってきました。

 しかし、ここで立ち止まってじっくりと考えてほしいのは、そもそも、従来型のリーダーシップがそこまで優れたものだったのかということです。

 実際のところ、外因的な働きかけによって、チームに行動を促そうとするリーダーシップは、それ自体あまり効率的だとは言えません。

 いくら部下のお尻を叩いても、なかなか生産性が上がらずに悩んでいるリーダーはたくさんいただろうし、部下たちもそんな職場でストレスを感じてきたはずです。

 リーダーによる外的な働きかけには一時的な効果があったとしても、長期的には役立ちません。

 チーム内の「熱量の差」はいつまでも解消されないままで、そのたびにリーダーたちは途方に暮れてきたというのが現実ではないでしょうか。

「外部からの働きかけによって、チームの行動変容を生み出そうとする試み」は、重度の低体温症で苦しんでいる人を、使い捨てカイロや毛布だけで手当てしようとする行為に等しいと言えます。

 深部体温が著しく低下しているときには、もちろん皮膚や末梢の温度も低下します。

 しかし、いくら身体の表面だけを温めても、根本的な問題は解決されないままです。

 実際の医療現場では、そういうときには一定温度の点滴投与や血液透析を用いた体外循環が行われるのだそうです。

 要するに、身体を内側から温める治療法がとられるわけです。

「どうすればモチベーションを高められるか」にとらわれているリーダーは、患者の「冷え切った手足」という表層を温めることばかりに気を取られて、正しい処置をとらない医者のようなものなのです。

 とはいえ、これまでのマネジメントの現場では、そのようなヤブ医者行為がまかり通ってきました。

 その代表的な対処法が「根性論」「責任論」「べき論」の類です。

 これは身体が冷え切った人に熱風を浴びせたり、サウナ室に閉じ込めたり、はたまた火炙りにしたりするのに近い。

 とんでもない喩えなのは承知の上ですが、さりとて多くの人の実感とさほどかけ離れてもいないはずです。

 本人の胸の内側はすっかり冷え切っているのに、やる気がある“かのように”振る舞わねばならない──そんな空気やプレッシャーが蔓延している職場は、決して珍しくないでしょう。

 そもそも、「やる気」がないと行動を起こせないのは、当人の心のどこかに「やりたくない……」「自分にはやれない……」という気持ちがあるからではないでしょうか。

 そんな後ろ向きの気持ちを「モチベーション」というごまかしによって奮起させ、「やりたくないけど、やるべきこと」「やれなそうだけど、やらないといけないこと」を自分やメンバーに押しつけてきたのが、従来のリーダー論なのです。