リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

なぜ、ダメなリーダーほど「部下のやる気」にこだわるのか?Photo: Adobe Stock

リーダーを悩ませる
「チーム内の熱量差」という問題

「部下にやる気が感じられない……」
「上司から言われたことしかやらない……」
「職場全体がなんとなく冷めている……」

 リーダー経験がある人なら、部下やチームにそんな想いを抱いたことがあるのではないでしょうか?
 あえて強い言い方をすれば、“たるんでいる”という感覚です。

 人が集まって仕事をすると、そこには「どんどん行動を起こす人」と「なかなか動こうとしない人」が出てきます。

 メンバー間のやる気のギャップがあまりに大きかったり、極端にサボっている人がいたりすると、そこからチームはおかしくなっていきます。

 リーダーの役目は「チーム内の熱量差を克服すること」です。

 あなたは「熱量の差」に、見て見ぬふりをしていないでしょうか?
 こんな言い訳をしながら、やり過ごそうとしていないでしょうか?

「ひとまず現状でもチームは回っているし……」
「やる気のあるメンバーさえ結果を出してくれれば……」
「多様性の時代だし、仕事のスタンスは“人それぞれ”で……」

 現代のように、リモート環境で働く人が増えたり、個人の働き方がバラバラになったりすると、集団にはものすごい“遠心力”が作用しはじめます

 あるいは、すでにそのエネルギーによって、気づかぬうちにバラバラに崩壊しているチームも少なくないでしょう。

「部下たちがやる気をなくしている…!」

 私・堀田創(ほった・はじめ)は、ニューラルネットワークなどを中心とした人工知能(AI)研究で博士号を取得したあと、「シナモンAI」という会社を立ち上げた起業家です。
 いまは同社の技術責任者として、AIエンジニアたちと働く日々を送っています。

 つまり、何を隠そう、私自身も1人のリーダーです。

 とはいえ、かつての私はリーダーシップというものに、さほど関心を払っていませんでした。
 もともと研究者出身で、マネジメントの経験が豊富だったわけではありませんが、中学生のころからプログラミングやテクノロジーに没頭してきたため、エンジニアたちの心性をよく理解できているという自負があったのです。

 ある程度チャレンジングな仕事も任せつつ、しかるべき報酬で応えていけば、彼らは必ず満足してついてきてくれるはずだという肌感覚を持っていました。実際、部下のエンジニアが30人くらいだったときまでは、それなりにチームはうまく回っていたように思います。

 異変に気づいたのは、ある年の夏のことでした。時代の後押しを受けて次々と舞い込む開発案件に応えるべく、現地採用のエンジニア数を一気に150人くらいに増やしました。

 そのときに顕在化したのが、まさに「チーム内の熱量差」です。

 しばらくすると、社内の重要な仕事を担っていたキーメンバーの半数以上が「辞めたい」「転職することにした」と言い出しました。さらに、人事担当者からは「現場のモチベーションが下がっている」というレビューが次々と上がりはじめたのです。

 当時のことを思い出すと、いまでも首の後ろがヒヤッとするような、イヤな感覚に襲われます。

 あのとき私は、リーダーとしての自分がどれほど無力だったかを痛感しました。「自分はリーダーとしてもまずまずやっていけている」というのは単なる錯覚で、本当は誰もついてきてなどいなかったのです。