『課長2.0』の著者・前田鎌利氏と『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』の著者・越川慎司氏が「結果を出し続けるチームを育てるリーダーの思考法」について語り合う対談が実現した。「名選手、名監督にあらず」。野球の世界でよく言われることだが、これはビジネスにも当てはまる。優れたプレイヤーだったからこそ、リーダーへと昇進するわけだが、そこに”落とし穴”があるわけだ。では、その”落とし穴”を回避して、リーダーとして成長するためには何が必要なのか? それを語り合ってもらった。

“トップ5%のリーダー”が、「仕事」よりも大事にしている“たった一つ”のものとは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「メンバー」を知らずして、「仕事」はできない

越川慎司さん(以下、越川) 前田さんが書かれた『課長2.0』には、「『仕事』について考えるとは、『メンバー』について考えることである」とありますね。ぼくも深く共感します。

前田鎌利さん(以下、前田) ありがとうございます。メンバーにはひとりひとり個性があって、得意なことも苦手なこともそれぞれ全然違います。タスクを上から順番にAさんからDさんまでポンポンと投げていくだけでは、成果なんて出せるはずもありません。

 メンバーがどんな性格で、何を考え、何を求め、今どんな状況にあるのか、といったことを知り、彼らが元気に仕事に取り組むために、どのようにアプローチすればいいかを考えるからこそ、効率も高まり、アウトプットの精度も高まる。

 だからぼくはよくメンバーに「何が得意なの?」「何が好きなの?」「これから何をやりたいの?」と聞いたり、彼らの様子を観察したりして、胸の内に秘めた「本音」に迫りたいと思っていました。そうして、本人が得意なことをどんどんやってもらいつつ、これからやりたいことをどんどんタスクとして振っていく。それがうまく噛み合っていくと、組織としてのアウトプットも極大化できるんです。

越川 おっしゃる通りですね。当然のことながら、メンバーは人間であり、大きさが画一的なコンテナではない。各人の特性に合わせて、対応を変えていくことはきわめて重要です。

前田 メンバーの得意なこと、好きなこと、これからやりたいことを知るために、ぼくは「どうやって会話を増やすか」を常に考えていました。ちょっと疲れた顔をしているメンバーがいたら、「どうしたら笑ってくれるかなぁ」なんて考えて、笑ってくれそうな話を必死に探したりしたものです。

越川 わかります。メンバーに興味関心を持ってコミュニケーションを始めるのと、単なる「作業」としてコミュニケーションを始めるのとでは、メンバーの受け取り方が全然違います。『課長2.0』を読んでいると、前田さんが、心の底からメンバーに興味関心を持ってコミュニケーションを始めていた様子が伝わってきます。

前田 『トップ5%リーダーの習慣』にも、「トップ5%リーダーの特徴は、仕事そのものよりも『仕事をしている人』に強く関心を持っている」とありますね。

越川 はい。前田さんのおっしゃっていることとほぼ同じなのですが、実はぼく、この事実がすごく意外だったんですよ。

“トップ5%のリーダー”が、「仕事」よりも大事にしている“たった一つ”のものとは?越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー 代表取締役社長。株式会社キャスター 執行役員。
国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者やPowerPointやOffice365などの事業本部長を務める。2017年に改善活動のコンサルティング会社 株式会社クロスリバーを起業。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日・週30時間労働を継続。のべ700社以上に、ムダな時間を削減し社員の働きがいを上げながら利益を上げていく「儲け方改革」の実行を支援。2018年から700名以上がリモートワークの株式会社キャスター執行役員と兼任。著書に、『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。

前田 意外、といいますと?

越川 『トップ5%リーダーの習慣』の前著である『トップ5%社員の習慣』を執筆した際の調査で、トップ5%社員の多くは「最も優先順位が高いのは、自分の目標達成。目標を達成するために、無駄なことをやめて最短距離で突き進む」と言い切っていたんですね。だからトップ5%リーダーも「メンバー」より「仕事」に目を向ける人が多いのかと思ったら、違ったんです。

 でも、よく考えたらそれは当然のことなんですよね。リーダーに課せられているのは、「個人の目標」ではなく「チームの目標」。それを達成するためには、前田さんがおっしゃるように、メンバーのことを知らなければならないわけですから。

前田 そうですね。プレイヤーとして結果を出すためには「仕事」に集中することが欠かせませんが、リーダーは「メンバーの力」を借りて結果を出すのですから、「メンバー」のことを知らなければ何もできない。「視点」を変えなければならないわけで、それができる人がトップ5%リーダーへと成長していくことができるということなんでしょうね。

越川 そういうことですね。私たちが実施した調査でも、トップ5%リーダーは、「メンバーの強み、弱みを知り、それらをいかに掛け合わせるか」が大事だと言っています。ここで面白かったのが、トップ5%リーダーが考える「強み、弱みの掛け合わせ方」です。

 ぼくのような「その他大勢」のリーダーはつい、「チームの中で成果を出せていないローパフォーマーを、成果を出しているハイパフォーマーでいかにカバーするか」と考えてしまいます。しかしトップ5%リーダーは違う。「ハイパフォーマーの弱みをいかに取り除くか」を考えるんですね。

前田 へぇ、それは面白いですね。

越川 たとえば、ある会社の営業部門に、お客様へのプレゼンテーションがすごく得意で、営業マンとしてハイパフォーマンスを上げているだけど、一方でエクセルのデータ分析などのデスクワークは苦手な人がいるとします。ならば、プレゼンは得意ではないけれど、エクセルのデータ分析が得意な人に代わりにやってもらうわけです。

 プレゼンテーションが得意な人はプレゼンテーションに特化してもらい、接客時間を増やす。そうするとそのチームの営業成績を最大化しやすいわけです。しかも、営業マンとしてはローパフォーマーだけど、デスクワークの得意な人の能力も活かすことができる。そのように各人の能力を上手に掛け合わせることで、全員がチームの業績に貢献する形をつくっていくわけです。

 実際、メンバー同士で強み・弱みの補完をし合い、売上が1.5倍になった営業チームもあるんですよ。「これは目の付け所が違う」と参考になりました。

前田 なるほど。たしかに、それはローパフォーマーの「穴」をハイパフォーマーがカバーしているわけではない。全員の力を生かして、チームとしてのパフォーマンスをあげるというのは、リーダーにとってきわめて重要な資質ですよね。

越川 そう思います。