「弱いネットワーク」を広げる

前田 さらに重要なリーダーの役割は、チーム全体の「視点」と「視座」を高めることですね。

 たとえば「この先、コロナの飲み薬が実用化され、ある程度感染者をコントロールできるようになれば、海外からの観光客がまた日本に多くやってくる時代がくるかもしれない。そのときにどうしようか」とか、「この先、二酸化炭素をできるだけ削減する努力が企業にも求められるようになる。そのときにどうしようか」といったように、「近未来から立ち返って逆算する」という視点をメンバーに与え、メンバー全体の視座を少しずつ高めていく。これがチームの成長につながります。

越川 そうですね。「目の前の仕事」をこなすことで精一杯で、現場のメンバーはどうしても近視眼的になりがちですからね。

 トップ5%リーダーはよく、視座を高めるためには「偶然の出会いを必然にすることが必要だ」と言っています。ビジネスとキャリアの7割は偶然の出会いから生まれる。だから自分から、偶然の出会いを必然にする意識が必要なんだということです。具体的な策としては、「会話を増やす」「会話の相手を増やす」という2つが考えられます。

前田 「会話の相手を増やす」のはとくに大切ですよね。とくにテレワークとなるとどうしても、自分の部署の人としか話さなくなりますから、「会話の相手を増やす」ことは強く意識したほうがいいですね。

越川 はい。そのためトップ5%リーダーは、自部署のメンバーと他部署のリーダーの1on1ミーティングをつくっていました。たとえば「自部署は営業だけど、自部署のメンバーがコールセンターのリーダーと1on1する機会を設ける」といった具合です。すると「あっ、そういうとらえかたがあるんですね」と視座を高めることができるわけです。

前田 社外との接点を持つのも大切ですよね。

“トップ5%のリーダー”が、「仕事」よりも大事にしている“たった一つ”のものとは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務

越川 おっしゃる通りです。実際、トップ5%リーダーの8割以上は、月に2回以上、社外のオンラインセミナーに出ていました。そして、彼らは決して、メンバーに「オレはオンラインセミナーに出ているんだぜ。お前たちも社外から情報を取ってこいよ」なんて言わないんですね。ただただ、自分の体験をメンバーに話すんです。

「昨日、偶然出たオンラインセミナーでこんな意外な発見があったんだよ。ほんと面白かった」と。するとメンバーは刺激を受け、「そんな気づきが得られるのか。面白そうだな。自分も出てみよう」と、外の情報を拾いにいくようになる。リーダーが自身の経験を話すことによってメンバーの行動をうながすというのは興味深いアクションでした。

前田 人間は、自分とは「異質な人」の知恵や経験を聞いたり学んだりしながら成長していくものですよね。社内の人との関係性ももちろん大事ですが、それだけだと不十分。同じ会社に勤めている人たちとは「同じ常識」を共有しているから、そこから得られるものはどうしても限定的なものになってしまうからです。普段接することのない「異質なもの」をどれだけ吸収することができるかが大事だと思います。

 ぼくにとって大きかったのは、2010年にソフトバンクアカデミアの第1期生に選んでもらったことです。普通に仕事をしているだけでは、上の役職まで上がらないと外部との接点はなかなか増えないものです。しかしソフトバンクアカデミアに参加できたことで、仕事をしながら、外の世界に触れる機会も爆発的に増えた。リーダーが外の世界に出て、メンバーにその話をしてあげるだけでも、刺激は増えていくと思います。

越川 前田さんがおっしゃった「異質なものを吸収する」という言葉は興味深いですね。それによってこそ、「イノベーション」が起きると思うからです。

「イノベーション」という言葉はよく「技術革新」と訳されますが、「イノベーション」という概念を説いた経済学者・シュンペーターは「新結合」と言っているんですよ。現存している「異質」をつなげると化学反応が起きて、それが「イノベーション」になるのだと言っているわけですね。

 トップ5%リーダーはこれに気づいていて、「異質な出会い」を偶然ではなく必然にするために行動量を増やしているんだと思います。そしてその大切さを、メンバーにも伝えている。

前田 そして、家と会社の往復をしているだけでは「同質な出会い」しか生まれませんから、「異質な出会い」を求めるならば、自ら積極的に普段とは違う場所にそれを「取り」に行かなければなりません。

越川 そうですね。自ら「取り」に行けば、そこには必ず「異質な出会い」があります。それこそが、「出会いを必然にする」ということだと思います。

 そこで面白いのは、トップ5%リーダーが「弱いネットワークを広げる」と言っていることです。「別に、腹を割って話せる親友を増やす必要はないんだ」と。「あの人の意見を知っている」というだけでも、十分な「弱いネットワーク」。SNSでフォローするのもいいし、オンラインセミナーに参加するのもいい。そのような「弱いネットワーク」を緩やかに広げていけばいいとトップ5%リーダーは言っているんですね。

 ぼく自身、「なるほどな」と思いました。だって、「親友を増やす」なんて簡単なことじゃないですからね。それを求めて行動したって、そうそう思うようにはなりません。だけど、「弱いネットワーク」を広げることであれば、それほど難しくはないですから、「それなら今日からでもできるな」と思える。しかも、その「弱いネットワーク」のなかから自然と「親友」と呼びうるような人が出てくるんでしょうね。

前田 いい言葉ですね、「弱いネットワーク」。仲良くなろうと思ってガチでいくと、嫌われることありますもんね(笑)。あまり意気込みが強すぎても、重たがられるといいますか。

越川 そうですね(笑)それに、ドライに「情報収集源」と考えてみても、太い「幹」をひとつ持つより、細い「枝」をたくさん持っていたほうが、いろいろな情報を集めやすいかもしれません。「弱いネットワーク」はあらゆる面でプラスに働きやすいものなんですよね。