「辞める覚悟」を持っているリーダーは強い

前田 社会の変化が激しい時代ですから、「昨日と同じこと」をやっていると生き残れません。自分が今まで経験したことや、自分の上司がやっていたことをトレースしても、全然うまくいかない時代になった。だからこそ、社外のコミュニティから情報や知見を取りにいく姿勢が不可欠になったと言えるでしょうね。

越川 はい。ただ、ここに日本企業の風土ならではの難しい問題もあるんです。

 経営者にインタビューすると、7割以上の人が「社外でも通用する人を社内に持ちたい」と答えます。社内だけでパフォーマンスを発揮する人ではなくて、社外でも活躍できる人を求めているんですね。

 ごく自然な希望なのですが、一方で人事部長にインタビューすると、「優秀な人を外に出さないような防御策をとっている」と答える人が6割以上もあるんです。優秀な人にはあえて「社外の空気」に触れさせないようにする育成・研修制度があるのも事実なんですよ。

前田 おおいなるパラドックスですね、これは。もちろん、「優秀な人材」を囲い込みたい人事の気持ちはわかるんですが、そのために、社外にネットワークを広げる活動を抑制しようとすれば、本当の意味で優れた人材を育てることができなくなる。このジレンマを解消するには、やはり経営サイドの意識も変えるしかないと思います。

 実際、ぼくは現在、企業から管理職研修を依頼されることがあるのですが、必ずこう伝えるようにしています。「私の話を聞いた方のなかから、退職希望者が出てくるかもしれません。それでもよろしいですか?」と。

越川 おお、ストレートですね。

前田 反応はさまざまです。私に研修を発注するのを躊躇する企業もあるし、時には、研修依頼を取り下げる企業もあります。だけど、「それで構いません」と言う頼もしい経営者もいらっしゃいます。「優秀な管理職が、この会社で勤め続けたいと思えるような会社に、私はしていきます」とおっしゃるのです。

越川 素晴らしいですね。人材を囲い込むのではなく、優秀な人材が働きたくなるような「企業」をつくる。それこそが、本来の経営のめざすべきところですよね。

 一方で、その「コインの裏側」として、「会社を辞める実力と覚悟」を持っている人こそが求められているとも言えます。実際、「会社を辞める実力と覚悟」を持っている管理職はめちゃくちゃ強い。「なんとか会社にしがみつこう」と考えている人とは、意識も行動も全然違いますからね。そして、そういう強い管理職の存在が、会社を変えていく原動力になるんでしょうね。

前田 そういうことですよね。自ら「社外で活躍するにはどうすればよいか」という高い視座を持って、常に自己研鑽をしている管理職は、部下のみならず会社にも「よい影響」を与えるということです。

越川 ヒアリングに協力いただいたトップ5%リーダーの中にも、ヒアリング後、『トップ5%リーダーの習慣』の刊行前に会社を辞めてしまった方が何人かいました。それだけ「市場が求めている人たち」だということなんですよね。いつ会社から放り出されてもいい覚悟で、外部から情報や知見を得たり、自ら定めた高い目標を達成すべく邁進している人は、やはりリーダーとしての成長角度も大きいんですよ。

(了)