もうシャープへの出資は凍結すべきだろう──。
11月下旬の台湾・新北市、この季節になると降り続ける冷たい雨に合わせるように、電子機器受託製造サービス(EMS)の世界最大手、鴻海精密工業グループ本社から、いよいよ、こんな言葉が漏れ聞こえるようになった。
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3月にシャープとの資本業務提携を発表した鴻海だが、郭台銘・鴻海会長個人による堺工場への出資は実行されたものの、鴻海によるシャープ本体への出資交渉は停滞したままだ。
「郭会長とともに、鴻海の個人株主でもある古参幹部たちがついに反対し始めた」(現地関係者)
その1人と目されるのが、鴻海グループの「お金の母(錢媽媽)」の異名をもつ黄秋蓮(Huang Chiu‐lien。)・財務長だ。会計士である彼女は、1974年創業の鴻海が小さなプラスチック部品メーカーだったころから資金繰りをサポートしてきたとされ、郭会長が全幅の信頼を置く金庫番だ。
「夜市の買い物から、プライベートジェットの購入まで彼女の承認が必要」(現地メディア)といわれるほどの有力幹部らが、財務面や株価への影響を理由に、郭会長と出資凍結のタイミングを協議しているという。
シャープ側はすでに、今年3月に発表した670億円(1株550円で9.9%)の出資を経営再建策からはずしている。実際に同社幹部は週刊ダイヤモンドに「(契約期限の)来年3月には間に合わないかもしれない」と、交渉難航を示唆している。
それでもシャープの包括的な再生シナリオの枠組みとして、金融機関や市場関係者らが一縷の望みを託してきたのも事実だ。