留職、価値観ババ抜き……有志活動と人事のコラボが切り拓く新しい可能性とはIllustration:村林タカノブ

1on1、越境、ティール組織……。「ウチの会社は変わらなきゃ」「組織をもっとよくしたい」そんなふうに思ったとき、ついつい目新しい施策に目を奪われることは多い。しかし、せっかくの取り組みも、自社に合うかも確かめずに導入したり、表面だけなぞって失敗に終わったりするといった話は今も頻繁に耳にする。
東京海上で有志活動「Tib」を展開する寺﨑氏、今福氏、林氏によれば、「新しいもの」のヒントは、実は自社の中にこそあるという。人事と連携し、留職や価値観ババ抜きといった施策を「掘り起こして」きたTibの活動の軌跡と方法論を、『大企業ハック大全』からご紹介しよう。

こんな面白い取り組みがあったなんて!
認知されていなかった留職制度

 会社を変えたいと思って活動しようとすると、すぐに新しいものに飛びつきたくなります。自分たちが新しく作り出したという実績がほしいという気持ちはとてもよくわかりますが、歴史が長い会社であればあるほど、いいものはすでに先人が作っています。

 私たち、若手有志団体「Tib(ティブ)」でも、東京海上という歴史ある企業にあった既存の取り組みや制度に気づき、その素晴らしさを体感することが何度もありました。問題は、その存在が若手に届いていないこと、内容がアップデートされていないことでした

 人事研修や制度などの中には、取り組みとしては素晴らしいにもかかわらず社内であまり知られていないものがあります。たとえば留職制度。グローバルな視点を身につけるために、若手社員を一定期間、主に新興国などのNPOや社会的企業に派遣する制度です。この制度によって、グローバルな視点を身につけ、自社の知見を社会課題の解決につなげることができるようになったりします。

 しかし、このような制度があることを、実際には知らない社員も多くいます。そんなとき実際に留職を経験した社員の方がTibのSNSを見て、何かコラボしてPR活動ができないかと相談がありました。

 そこでTibと、留職プログラムを運営している特定非営利活動法人クロスフィールズ、そして留職経験者が共同でイベントを開催しました。結果として参加者は100人を超え、「留職制度に応募したい」という人も複数人現れました。

 私たちが開催したイベントの特徴としては、会社主催でなく「有志団体」という看板を前面に出して気軽さを演出し、登壇者がざっくばらんにディスカッションするようなカジュアルな形式にしたことにあります。「留職によって、フラットに転職についても考える瞬間があり、改めて自身のキャリアを見つめ直す機会になった」というような、会社主導のイベントでは言いづらいような経験者の本音も引き出せました。登壇者にとっては経験を語るいい機会になり、参加者にとっては自分のキャリアを広げる場を提供できたのではないかと思います。

既存の取り組みをアップデート――価値観ババ抜き

 他にも既存のものをリバイバルした事例があります。

 Tibで「メンバー同士をもっと知ろう」と実施した「価値観ババ抜き」というワークショップ。このイベントを知った人事企画部の社員から、実は人事で類似したコンテンツを用意しているけれどまだリリースしたばかりであまり認知されていない、Tibのように楽しそうな雰囲気で社内にアピールできないか、と相談がありました。

 そこで、発信や資料をもっとビジュアル重視なものにしたり、内容もより楽しめるような工夫を入れたりして、Tibふうにアレンジしました。実際に名古屋の営業所から声がかかり、Tibメンバーが東京から出向いてその取り組みを開催した、という実績もできました。

 留職制度にしても人事コンテンツにしても、実は若手が求めている取り組みや制度というものは、企業にすでに存在しています。ですが、会社のPRがうまく届いていなかったり、PRの内容が不十分だったりすることで、若手が知らない、理解できていないということが往々にしてあります。

 また、業務として長く担当していると、各種研修や制度のPR内容が画一的になってきてしまい、若手が求める情報との間に乖離が生じ、若手には刺さらない内容になることがあります。担当として各種制度やコンテンツのよさ・意義は理解しつつも、実際に今どのように求められているのか不安に思っているところもあるのではないかと思います。

会社の中にすでにある「新しいこと」を掘り出そう

 新しいものだけにこだわるのではなくて、近くにあるいいものを掘り出して、自分たちの言葉で言い換えて、若手が「欲しい!」と思う状態に磨き直して提供する。自分たちが知らない原石が眠っているかもしれないという思いで、まずは会社のことをよく観察してみることからスタートすることをおすすめします。

 もう1つ有志団体がやる意味として重視したいのが、自分たちが心の底から価値を見出し、楽しんでやれるものなのかということ。会社から期待されるのは嬉しいことなので、「一緒にできないか」と相談されると何とかしたいと思うこともあるでしょう。ただ、それが私たち自身にとって価値あるものなのか見極めることが大切です。留職制度も価値観ババ抜きも、「こんな楽しいことがあるなんて!」と自分たちの心が動いたからこそ、熱量の高いイベントを開催できたのです。

 そのためにも、メンバーが何を求めて有志活動をしているのか、どのようなことに心が動くのか、お互いに把握していることが重要です。社内外から何か声がけがあったときに、「この案件はこの人に向いてそう」と具体的な個人のイメージが湧くかどうか、特に窓口担当の人は意識してみてください。

東京海上 | 寺﨑夕夏(てらさき・ゆうか)
1992年千葉県生まれ。国際教養大学国際教養学部卒業。2015年東京海上日動入社。商社・物流業界の法人営業を経て、2018年より東京海上ホールディングスのデジタル戦略立案や新規事業立ち上げに従事。2018年11月に社内の若手有志団体「Tib」を発起人として立ち上げ。
東京海上 | 今福貴子(いまふく・あつこ)
1990年熊本県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。2015年東京海上日動入社。入社以降、企業商品業務部・企業新種グループにて新種保険開発を担当。社内の有志団体「Tib」の立ち上げ期からのメンバー。Tib内では広報事務局を務める。
東京海上 | 林嵩大(はやし・たかひろ)
1993年大阪府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2016年東京海上日動入社。企業商品業務部・保有企画グループを経て、現在の企業商品業務部・企業新種グループ。2018年11月に社内の有志団体「Tib」に加入。立ち上げ時からの参加メンバーとして、Tib内では企画事務局に所属。