攻めの機能は、現場に必要
コロナ禍でも明らかになりましたが、私たちがメディアから間接的に得ている情報と現場で直接的に得られる情報とでは、その量も性質も時に大きく異なります。
例えば、現在シンガポールでは新型コロナの感染者数が一日当たり3000人を超えることもあり、日本にいる人から心配されることが多々あります。しかし、シンガポールでは職場や学校へ行く際に検査が一部義務化されていることもあり、人口当たりPCR検査数は日本よりも圧倒的に多いという事実は、日本においてどの程度報道されているでしょうか。
また、外食時の人数制限や商業施設への入退管理をはじめ厳格な行動規制もされているため、住民からするとむしろ安心感があります。政府の施策や病床利用率などの最新データも毎朝スマホに配信されるため、透明性も高く、終息に向かっていることが実感できます。
このように、間接的に得た情報だけでは、課題を正確に把握し、それを解決するための全体構造を描くことは決してできません。企業が海外市場を攻めたいのであれば、新型コロナによりバラまかれたニーズの種を確実かつ速やかに拾い上げるためにも、現地で第一次情報を足で稼ぐ存在は必須です。
オンライン会議ばかりしているから海外駐在員は不要、という説明はいささか短絡的です。そのオンライン会議で海外駐在員が一体何を報告しているのかを考えてみてください。その内容がもし日本にいても手に入る程度の情報なのであれば話は別ですが、現地でしか手に入らない情報、気づけない変化があるからこそ、現場に派遣されているわけです。
会社の目指すゴールをしっかりと理解しつつ、バイアスを持たずに現場で解像度高く事象を観察し、起こっている変化に敏感に反応する。そして、課題発見から解決に向けて攻めの機能を確実に果たすべき存在として、海外駐在員が担うべき責任は重大です。
もちろん、本社の目指す方向性を確実に理解できているのならば、オンライン会議が主流となりつつある今、日本からの派遣という形にこだわる必要もないのかもしれないという点だけは、補足しておきます。
今回は攻めの機能としての海外駐在員の存在意義について解説しました。次回はこの学びを活かして、海外駐在員として何ができるかについて考えてみましょう。
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。
坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、