新型コロナウイルス感染者のために確保された病床の一部が、補助金を受け取りながらも感染拡大のピーク時に使われなかった問題で、政府は「幽霊病床」の解消に向けた医療機関別の情報公開に乗り出す。なぜ当該の病床は稼働せず、幽霊病床と呼ばれることになったのか。その実態を明らかにした。(国際医療経済学者・グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン〈GHC〉会長 アキよしかわ、GHC代表取締役社長 渡辺さち子)
補助金を受け取ったのに稼働しない
「幽霊病床」に政府が疑念
コロナ確保病床への補助金が、適切に使われていない可能性がある――。
新型コロナ感染拡大の第5波が国内でピークに達した8月20日。コロナ感染患者を受け入れる「確保病床」に関し、田村憲久厚生労働大臣(当時)は自治体が公表している病床数よりも実際の入院者数が少ないと指摘。病床を確保した医療機関に支払われる補助金が適切に使われているか、東京都などと実態調査を行う考えを表明した。
国内で過去最大の新規感染者数となり、医療が逼迫して必要な入院もできずに自宅で「死」を迎えるコロナ患者もいるとの報道も出ているタイミングで、政府が医療機関に疑念を抱いていることを明らかにしたのである。
9月に入ると、日本テレビが東京都内172病院の病床使用率をまとめたリストを入手し、中には病床使用率が0%の病院もあり、これらを「幽霊病床」として問題提起。報道は過熱した。
そんな中で10月15日、岸田文雄首相は衆議院解散を受けた記者会見で「いわゆる“幽霊病床”について、これを“見える化”し、感染拡大時の病床稼働率を8割超まで引き上げる」と言及した。同日発表された政府資料「『次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像』の骨格」の中で「ピーク時に即応病床と申告されながらも使用されなかった病床(いわゆる「幽霊病床」)の実態を把握」と明記されるなど、「幽霊病床」というワードは一気に市民権を得た。なお即応病床とは、コロナ患者がすぐに受け入れられる病床のことである。
全国知事会は同日、平井伸治会長(鳥取県知事)が「『幽霊病床』というレッテル貼りが行き過ぎてしまい、結果として真に必要な医療体制の確保に悪影響を及ぼさないよう配慮を求めるとともに、国による保健・医療人材の確保を含め、各種対策の早期の具体化に向けて、速やかに全体像を明らかにしていただきたい」とコメントを出し、この動きをけん制してみせた。日本医師会は10月20日の定例会見で全国知事会のコメントを支持し、「言葉が独り歩きしている。どうしてそうした状況になったのかを冷静、早急に分析して次なる波に備えるべき」と指摘した。
岸田首相が言及した「見える化」について政府は11月12日、第6波対策をまとめる中で具体策を示した。今年12月から病院は、確保したコロナ病床数とその稼働状況をデータで報告しないと補助金を得られず、かつそのデータは病院別に公表することにしたのだ。
ここまでの「幽霊病床」騒動と、政府や自治体、医療関係者を巻き込んだ混乱はなぜ起こったのだろうか。この問題を語る上で重要なことは、何をもって「幽霊病床」と呼ぶのかである。