まだ科学的に証明されたわけではないが、神経線維が増えていくというのは、どうも私たちの直観力とか洞察力といった知恵の力に関係がありそうなのだ。

  もっとやさしい言葉で言えば「年の功」。つまり、齢を取っていくと、計算したり、記憶したりするスピードは落ちるが、もっと高度な深い知恵の力は、年齢とともに増えていくようなのだ。言い換えると、脳の潜在能力は年齢とともに発達していくのである。

団塊世代の多くが「解放段階」

 ジョージ・ワシントン大学の心理学者ジーン・コーエンが、45歳以降の人の心理的発達の段階は「再評価段階」「解放段階」「まとめ段階」「アンコール段階」の4段階に分かれると述べている。

  コーエンは、50代中盤から70代前半にかけての段階を「解放段階」と呼んでいる。日本の団塊世代は、ちょうど「解放段階」のど真ん中にある。この解放段階においては、何かいままでと違うことをやりたくなる傾向がある。

  たとえば、サラリーマンを早期退職して沖縄に行ってダイバーになる。あるいは、ずっとパートでレジ打ちをやっていた女性がダンスの先生になる、といった具合だ。こういう一種の「変身」が起こりやすくなるのがこの段階の特徴だ。

  なぜ、60代前後に「解放段階」が訪れるのか。1つは、前述のとおり、脳の潜在能力が発達し、新たな活動や役割に挑戦するエネルギーが湧きやすくなっていること。もう1つは、この時期には退職や子育て終了、親の介護の終了などライフステージが変わりやすいためだ。これがきっかけで心理面の変化が起きやすくなる。もう人生長くないのだから、自分のやりたいことをやろう、という気持ちが強くなる。すると「インナープッシュ」と呼ぶ自己解放を促す精神のエネルギーが起きやすくなると、コーエンは述べている。

  インナープッシュには衝動、欲求、憧れなどいろいろの形態があるが、これが消費のきっかけになる。私は、このような形態の消費を「解放型消費」と呼んでいる(解放型消費の詳細については、拙著『リタイア・モラトリアム』をご一読ください)。

  シニア世代に「解放型消費」が起きるには、商品・サービスに次の3つが関係していることが重要だ。1つめが「わくわくすること(Excited)」、2つめは「当事者になること(Engaged)」、3つめは「勇気づけられたり、元気になったりすること(Encouraged)」である。私はこれらを「3つのE」と呼んでいる。