革新的なヒット商品のアイデアは、市場調査からは生まれない

 しかし、ウォークマンとiPod/iPhoneには共通の物語がある。それは革新的なヒット商品のアイデアというのは、市場調査からは生まれないということだ。

  ソニーがウォークマンを商品化する以前に、ウォークマンのようなものを商品化したところはなかった。しかし、一度ウォークマンという商品が具体的に目の前に出現すると、「こういうのが欲しかった」という人が大勢現れた。

  iPodやiPhoneも同じだ。これらが商品化される以前にはiPodもiPhoneもなかった。そして、一度具体的な商品が市場に現れると爆発的に売れた。

  こうした商品のニーズは、多くの消費者のなかに潜在的には存在していた。だが、商品化される以前に、そのニーズが消費者の側から具体的に顕在化することはなかった。

  なぜなら、多くの場合、消費者自身がそうしたニーズの存在に気がついていなかったからだ。だから、表層的な意識レベルの情報しか把握できないネットアンケートやグループインタビューをいくら綿密に行なっても、革新的なヒット商品のアイデアは生まれてこないのである。

  人をわくわくさせる商品を生み出すのは、消費者の役目ではない。生み出すのは、商品提供者なのだ。そのためには、何よりも商品提供者自身がわくわくしていなければいけないのである。

リタイアしても、自分が当事者になると消費する

 旅行会社のクラブツーリズムは、首都圏を中心に300万世帯、700万人の会員がいる。主な会員は60代、70代のシニアで、多くのテーマ型旅行を実施している。この会社の面白いところは、顧客参加型の活動だ。

  『旅の友』という旅行情報満載の月刊誌を会員にタダで配るのだが、配布方法は郵送だけではない。エコースタッフというスタッフがいて、彼らに配ってもらう仕組みがある。

  このエコースタッフは、実はもともと顧客である。スタッフになって会報誌を月に一度250部配ると月3000円、配布部数の多い人は3万円以上もらえるのだ。これでも郵送するよりも配送コストが安いので、会社側にはメリットが多い。かつ、直接自宅に配ることで顔を合わせて会話する機会があり、これが顧客リレーションシップ・マネジメント(RM)にもなっている。