災害緊急時の対応や連絡先、日本独特の文化・習慣の解説、そして生活基礎情報までを網羅した、冊子を中心とした便利サービス「いろはにっぽん生活応援パック」

 日本で生活を始めた外国人向けの「いろはにっぽん生活応援パック」という商品がある。株式会社ラーンズが提供する、災害緊急時の対応や連絡先、日本独特の文化・習慣の解説、そして生活基礎情報までを網羅した冊子を中心としたパックだ。

 多くの自治体にヒアリングした結果、「日本人にとって当然のことこそ外国人には知られていない傾向がある」という改善点を炙り出して、カバーしている。見ただけで理解できるイラスト中心の表現手法なども評価され、10月に発表された2012年度グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会主催)を受賞した。

 注目の商品ではあるものの、全国の自治体や国際交流協会などを対象に販売されているとのことであり、何より外国人向けなので、ほとんどの読者にとっては興味の対象外かもしれない。

 しかし、何かを新しく始めようとする際「これさえあれば大丈夫」というパックがあれば安心なのは、このケースに限ったことではない。これまで防災を意識してこなかった向きには、3.11以降定番商品となった防災セット類は、日々の安心にもつながったはずだ。

 とはいえ、同様の「○○パック」「○○セット」が個々の事情に応じて多数出回っているかと言えば、実のところそうでもない。たとえば1人暮らしを始める大学生には、量販店の学生向け家電セットや家具セットがあれば事足りる。大学での生活については、学生課あたりがそれこそ冊子を用意してケアするだろう。友人やネットに頼ることもできる。

 その他の場合も同様である。健康な大人(大学生を含む)にとって、最低限の金と時間、情報収集力があれば、○○パックの類は必要ではない。例外は前述の防災セットで、細々とした防災グッズを「すぐに」「一度に」入手でき、漏れも生じにくい点が人気を集めたのだろう。

 逆に言えば、健康面、経済面、情報収集力(収集環境)のいずれかに問題があり、なおかつ初めての経験に直面した際には、「○○パック」の存在がありがたいということになる。一部の高齢者、一部の外国人は、多くの点で不自由を抱えている。だからこそ、外国人向け「生活応援パック」が注目を集めているのだ。高齢者が不自由を感じる場面は多く、ビジネスパーソンにとって必要不可欠なインターネットも、その過半数は利用していない。

 高齢者のネットへの取り込みは数多く試みられているだろうが、始めたいがどこから手をつけていいのかわからない層、興味はあるが敷居の高さに尻込みしている層はまだまだ多い。始めたものの操作でつまずいたり、知識不足で活用できていないケースも多いはず。

 あくまで売り手の側からすればだが、これは非常にもったいない状況だ。手続きや設置だけでなく、その先までをカバーする一連のサービスとしての「パック」が普及すれば、高齢者のネット利用率もさらに上向くだろう。顧客の自主性をある程度損なうことになるが、面倒や障害を取り除く意味は大きい。

(工藤 渉/5時から作家塾(R)