シリーズ累計158万部を超え、ビジネスパーソンの圧倒的な支持を集める「グロービスMBAシリーズ」。シリーズ最新刊『グロービスMBAミドルマネジメント』は、初めて部下を持つ人が押さえておきたい知識を網羅した1冊だ。本連載では、本書の執筆者である嶋田毅氏が、ミドルマネジャーの仕事の重要性やその課題について、書籍の内容を踏まえながら解説する。第1回は、「プレーヤー意識が抜けない」というミドルマネジャーが直面しがちな課題の乗り越え方を提示する。

プレーヤーとして優秀でも、マネジャーとして評価されない人の共通項Photo: Adobe Stock

「優秀なプレーヤー」が、昇進すると評価されなくなる現象

【事例】
 企業向けに業務改善の手法を教育したり、コンサルティングを行ったりする生産性向上機構(仮称)のB部長のもとに、2人の若手から相次いで苦情が寄せられた。いずれも半年前に課長になったA課長に関するものだ。A課長の肩書は「教材開発課課長」であり、教材の品質の担保や新教材の開発などを任されていた。2人の指摘は、A課長がしっかりマネジメントをしてくれないというものであった。

 彼らの声は以下のようなものである。

「Aさんが課長になってから、課の雰囲気が悪いんです。例えば、メンバー間でちょっとした口論があった時でも、あまりそこに関与してくれません。『まあまあ』などと言ってその場はいったん収めるのですが、どちらかを諫めるということもしない。ことなかれ主義というかなんというか。

 あと、出来上がった教材に対するA課長のフィードバックからは、いつも学ぶことが多いのですが、仕事の割り振りには納得がいかないんです。来た仕事を、とりあえず手が空いている人に割り振るだけ。私には、いつも同じような仕事ばかりが回ってきて、正直やる気が削がれています。もっと仕事力を向上させたいのですが、A課長は難しい仕事があると何でも自分でこなしてしまうんです。Aさんの下だと、新しいチャレンジングな仕事の機会が巡ってくる気がしません。」

「A課長はあまり交渉事が好きでないのか、押し切られすぎだと思います。営業が大事なのは分かりますが、もう少し教材開発課の意見を通すことが必要ではないかと思います。必要がないと思われる場合でも、営業が言えばその通りに、教材を顧客ごとにカスタマイズします。おかげでそうしたカスタマイズの仕事が必要以上に増えてストレスです。

 もっとクリエイティブな仕事をしたいのですが、そのような仕事に割く時間もないです。そもそも、A課長はそのような仕事は僕らにはできないと思っているのかもしれません。もう少し我々のポテンシャルを信じて、任せてくれると嬉しいのですが。」

 B部長は考えていた。

「A課長は、課長になる前の教材作成者としての能力はピカ一だった。それで課長にしたのだが…。課全体としては一応の結果は出ていたから少し油断したが、それは彼がプレーヤーとして面倒な仕事をこなしたおかげということのようだな。彼は課長の仕事というものを理解できていないのだろうか。さて、どうしたものか」