「“正解からはみだそう” “表現するよろこびをはぐくむ” ために。」というコーポレートメッセージを発信しているぺんてる株式会社社長の小野裕之さんと、ベストセラーになった『13歳からのアート思考』の著者であり、美術教師の末永幸歩さんによる、「表現」をめぐる対談をお送りする。現代を生きる私たちにとって、なぜ自分の「興味のタネ」や「疑問・違和感」から目をそらさずに生きていくことが大切なのだろうか? 全3回にわたってお送りする(構成/高関進)。
「違和感」を放置しないことの大切さ
※参考
価値ある仕事は「上位目標」から生まれる
──【アート思考対談】ぺんてる社長・小野裕之さん[第1回]
仕事もアートも「動機」が肝心
──【アート思考対談】ぺんてる社長・小野裕之さん[第2回]
小野裕之(以下、小野) いま、世の中が大きく変わってきています。人種差別やジェンダーの問題など、いろいろな人のいろいろな考えを幅広く受け入れていこうという状況になってきました。そうなってくると、われわれが支援すべき「表現するよろこびをはぐくむ」場所も、どんどん広がっていくでしょう。
「感じるままに、想いをかたちにできる道具をつくり、表現するよろこびをはぐくみます。」は2013年につくった当社のビジョンですが、世界中のいろいろなところでいろいろな思いを実現していくために、「表現するよろこび」にさらにスポットを当てて貢献していける会社になりたいと思っています。
末永幸歩(以下、末永) 「表現するよろこびをはぐくむ」という大きなビジョンに立ち返って企業活動を考えることは、教育の話にもつながる部分があるかもしれませんね。
興味や疑問をもつためには、「好きなこと」や「ワクワクする趣味」などが必要だと思われがちですが、興味の対象は「好き」から見つかるだけではありません。「好き」の裏返しともいえる「違和感」に目を向けることも、自分の興味を見つけるための大きな入り口なんです。
「え、なんでだろう?」「これって、ちょっとおかしいんじゃないの?」といった違和感は、自分の感情が動いた証拠です。そこに強い興味があるからこそ、感情が動いたわけです。脳科学的には、もともと人間の感情というのは、危険を避けて自分の身を守るための機能だとも言われているそうです。
つまり、人間にとっては「これが好き!」「これが楽しい!」より、「なんかおかしいんじゃない?」「ちょっとイヤだな……」という感情のほうが、生存本能にもとづいたものですから強いわけです。そこに目を向けていくほうが、自分が本当に興味をもっていることにたどりつきやすいんじゃないかと思いますね。
小野 「違和感」という言葉はすごくしっくりきますね。仕事における「問題意識」も、自分から果敢に探しにいく。人は押し付けで言われてもなかなかやれませんが、自分なりに違和感を抱いたことに積極的に取り組んでみるほうが動きやすいですよね。
会社員も自分で問題を見つけにいって、いざ問題を見つけたら「よし、これで自分も成長できるぞ!」とワクワクするような思考になっていくと、もっと仕事が面白くなっていくでしょう。「『挑戦』なんて余計な仕事が増えるだけ」と思うかもしれませんが、こういう「余計な仕事」こそが生きていくうえでの力、成長を生み出す力になってくれるんだと思いますね。
他方で、「“正解からはみだそう” “表現するよろこびをはぐくむ” ために。」という新しいコーポレートメッセージの、「正解からはみ出そう」は、なかなか難しいことだと思います。アート思考の観点だと、この「正解」はどのように解釈できるのでしょうか?
末永 私はこのコーポレートメッセージをお聞きしたとき、「正解からはみだす」について、「『みんなが正解と思っているもの』からはみだしてみよう」「『正解と言われているもの』からはみだしてみよう」という意味なのかなと解釈しました。
アート思考の1つの目的である、「自分だけの答えをつくる」ためには、まず前提を疑ってみる、常識的なものの見方から離れて物事を見てみることが必要ですが、それが「正解からはみだす」ことにつながっていくと思います。