ベストセラー『13歳からのアート思考』著者の末永幸歩さん、花まる学習会取締役で『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』著者の井岡由実(Rin)さん、そして花まる学習会代表の高濱正伸さん、3名によるトークをお送りする。子育て中の親御さんからのアートにまつわる具体的な質問に答えながら、「アート×子育て」によって自分の人生を生きる子どもがどのように育っていくのか、核心に迫った(全3回 構成/荒木貴裕)。

自己肯定感を高めすぎると「自分しか見えていない子」が育つ?Photo: Adobe Stock

「自分の人生を生きる子になってほしいけれど……」

【質問】「アート×教育」で目指すものとは何でしょうか?「自分の人生を生きる子ども」はどうやって育てればいいのでしょうか?

末永幸歩(以下、末永):アート教育をしていて「子どものこういう姿が見られてよかった!」と思える瞬間が3つあります。1つめは、子どもたちが自分を肯定できている姿、次にほかの人の考えを面白がれている姿、そして自分事で生きていけている姿です。

自分を肯定できるっていうのは、すごく大事なんですよね。アートってつねに「正解がないもの」に対して「自分の答え」をつくり出していく活動なので、作品のなかに自分自身がそのまま表現されます。そうやってつくった「答え」が他者から受け入れられる、興味を持ってもらえる、認められるという体験をすると、子どもたちは自分の存在自体を「それでいいんだよ」と肯定されたように感じるはずです。

こうやって自分の考えを大切にすることを教えていくと、子どもが自己中心的になってしまうんじゃないかと言う人がいますが、そんなことはないと思います。自分なりの答えを大事にできる子は、自然と「自分とは違う答え」を持った他人の考え方にも「面白いね!」と言えるようになりますから。自分の答えを持つことと、他人の答えを面白がれることは、表裏一体なんですよね。

井岡由実(Rin):末永さんにものすごく共感します。アートって自分との対話であり、「私はどうしたいんだろう?」って自分に問いかけていく過程なんですよね。それによって表出してくるものが作品なので、作品は「今の自分自身そのもの」なんです。それを過程も含めて丸ごと認めてもらえる、認めてあげることもできる、そして自分でも自分のことを認められる──そういうことができるからこそ、アート作品の制作ってすばらしいなといつも感じているんです。

授業をやっていていつも感じることなんですが、子どもたちは一生懸命自分と対話して生まれた作品をものすごく大事に扱います。上手とか下手とか、うまくいってるとかいっていないとか、そういったことを超越して、どの子も自分との対話から生まれた作品に対して、「これはすごく大事なものだ」という感覚に包まれる瞬間があるんです。

それは「他者を認める」ということにもつながっていて、自由に作品をつくることが保証されていると、最終的には「他の子の作品」もちゃんと認めて、それに対する興味を深められるようになっていきます。この部分にこそ、アートの授業としての意味・意義があるかなと思っています。

それで、質問者の方の「自分の人生を生きる子どもをどう育てる?」という問いについてですが、まずは「自分で自分の人生を決めていくんだ」「正解は自分の中にあるんだ」という手応えを子どもが持っていることがすごく大事だと思います。「迷ったときには自分自身に聞けば大丈夫なんだ」という自信を持てている子は、最終的に自分で自分の人生をつくっていけるんじゃないかなと。

これはまさに末永さんのおっしゃる「アート思考」にもつながっていきますが、一人ひとりがアーティストとして、自分の作品をつくっていくような生き方ができるようになればいいなと思いますね。

高濱正伸:そうですね。決まった正解を見つけたり、速く計算したりする力だけでは足りなくなった時代には、末永さんのおっしゃる「アート思考」はすごくわかりやすいキーワードだと思いますし、広く子どもを持つ親御さんたちみんなに夢や希望を与えたんじゃないかなと思います。

末永:ありがとうございます。私は「アート×教育」の分野は、決して子どものためだけのものではないと思っています。「アート思考」の授業をきっかけにして、大人たちも新しいものの見方に気づいたり、自分なりの答えをつくってみたりするようになってほしいという思いを持っています。本日は本当にありがとうございました!

(トークイベントおわり)

▼対談全編はこちらから(花まる子育てカレッジ)▼
https://www.hanamaru-college.com/videodetails.php?id=987

自己肯定感を高めすぎると「自分しか見えていない子」が育つ?末永幸歩(すえなが・ゆきほ)
美術教師/浦和大学こども学部講師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、東京学芸大学附属国際中等教育学校や都内公立中学校で展開。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップや、出張授業・研修・講演など、大人に向けたアートの授業も行っている。初の著書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が16万部超のベストセラーに。オンラインで受講できるUdemy講座「大人こそ受けたい『アート思考』の授業──瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨く」を2021年5月に開講。
自己肯定感を高めすぎると「自分しか見えていない子」が育つ?井岡由実(Rin)(いおか・ゆみ)
1978年奈良県生まれ。2001年児童精神科医の稲垣孝氏とともに、心を病んだ青年たちへの専門的な対応に専心したのち、2004年花まる学習会取締役に就任。2005年朝日小学生新聞で「国語のきほん」連載担当。その後『国語なぞぺ~』他を執筆。2007年に芸術メセナとしてGallery OkarinaBを立ち上げ、自ら国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、「芸術を通した幼児期の感性育成」をテーマに、「ARTのとびら」を主宰。教育 × ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。
花まる学習会年中・年長向け教材開発に携わり、冊子「1年生になる前に」では、幼児期に伸ばしたい能力や感性の教育について論じる。
2009年より子どもたちのための創作ワークショップクラス「Atelier for KIDS」、2017年よりお母さんのための創作と対話のクラス「WORKSHOP for MOM!」を開催。2018年、ART × 教育の活動の軌跡を明らかにした『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』を実務教育出版より出版。
2019年より高知県佐川町立小学校と保育所にて「子どもたちがより主体的に自分の人生を生きるための、非認知能力を育てる」ことを目的に、Atelier for KIDsの授業を定期的に開催。武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科にて講義も行う。
自己肯定感を高めすぎると「自分しか見えていない子」が育つ?高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
花まる学習会代表
1959年熊本県生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了。1993年、「数理的思考力」「国語力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック委員会理事。テレビ「情熱大陸」「カンブリア宮殿」「ソロモン流」、朝日新聞土曜版「be」、雑誌「AERA with Kids」などの多くのマスコミにも登場。著書に、『お母さんのための「男の子」の育て方』『お母さんのための「女の子」の育て方』『働くお母さんの子どもを伸ばす育て方』(以上、実務教育出版)、『本当に頭がいい子の育て方』(ダイヤモンド社)などがある。