フィードバックの質を高めるのは、組織の心理的安全性

激動の時代で「キャリア自律」を促すにはどうすればよいか?日本IBM、ビズリーチ、サイバーエージェントに学ぶフィードバックの方法酒井哲也(さかい・てつや)
株式会社ビズリーチ取締役副社長 ビズリーチ事業部事業部長
2003年、慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社日本スポーツビジョンに入社。その後、株式会社リクルートキャリアで営業、事業開発を経て、中途採用領域の営業部門長などを務める。2015年11月、株式会社ビズリーチに入社し、ビズリーチ事業本部長、リクルーティングプラットフォーム統括本部長などを歴任。2020年2月、現職に就任。

井上ネットワークを広げるためには、心理的安全性の有無も重要だと感じています。新卒入社や中途入社の方々は、心理的安全性のない状態で関係性を広げる必要がありますよね。一方、もともと在籍していた人同士はつながりやすい。特にコロナ禍のリモートワークで、このような格差が生まれています。そのため経営層は、組織内に心理的安全性が生まれるきっかけづくりをしなければなりません。

藤本:若手社員に心理的安全性を感じてもらうため、何か取り組まれていることはありますか?

曽山弊社で試しているのは、4つのステップで自走サイクルを回す取り組みです。このサイクルによって心理的安全性が高まり、若手社員も自主的に動けるようになると考えています。

 4つのステップは、まず「抜擢」から始まります。つまり期待をかけるということですね。その期待は「ニュースから情報収集して毎朝グループにシェアしてね」みたいな小さなことで構いません。そうすると「がんばろう」と思える人が増えます。次のステップが「決断」です。任されると、必然的に決断する場面が出てきます。そして「失敗」というステップを踏むことになります。その失敗を軌道修正することで、徐々に成果が出るようになる。そこで4つ目のステップである「学習」が始まります。このサイクルを回せるようになると、オンライン下でも成長しやすくなるというのが私の考えです。

 日本は社員のエンゲージメントが低いとよく言われますが、エンゲージメントが低い企業は「褒める」「期待をかける」の2つが少ないと感じています。会社全体をいきなり変えるのは難しいので、まずはそれぞれの立場で周囲に期待をかけて褒めてあげる。この一歩は、必ず返報性の原理で自分にも返ってきます。そうして少しずつ周りを変えていくところから始めてみてほしいですね。

藤本:4つのステップそれぞれで適切なフィードバックをもらうことも、成長するためには大切ですよね。上司に対して、「こういうフィードバックがほしい」と伝える効果的な方法があれば教えてください。

井上:弊社では、逆メンタリングをするように働きかけています。経験豊富な人にメンタリングをお願いする文化はもともとあったのですが、今は逆にエグゼクティブなどが若手社員にメンタリングをお願いするようにしています。逆メンタリングのあと、Z世代がどう感じているのかやエグゼクティブから何を学んだのかといったことを発信し、「発信することが礼儀だ」とポジティブに受け入れる世界観を作りたいんです。エグゼクティブにとっても若手にとっても、フィードバックをしたという実績が自分のキャリアにいい影響を与えると考えています。

 日本では、ポジティブなフィードバックをすることに対して照れを感じる人が多いですよね。年齢問わず、「褒めていいのかな」とためらいがちなんです。そのため、私はよく「フィードバック イズ ギフト」だと伝えて、どの世代にもポジティブなフィードバックの練習をしてもらっています。それを会社全体として取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

藤本:日本だと、「フィードバック=ダメ出し」というイメージがあると思います。しかし、フィードバックというのは本来、「栄養を与える」「次の糧になるためのものを与える」という意味です。それを理解すると、フィードバックの仕方も変わってくるでしょうね。

曽山:サイバーエージェントでは、上司からよりよいフィードバックをもらえるよう「グッドもっと面談」をトレーナーなどにおすすめしています。まず面談を受ける本人は、前回の面談から今までを振り返って「グッド(よかったこと)」と「もっと(改善すべき課題)」をそれぞれ3つずつ書き出すんです。そして、それを面談の前に上司へ提出する。上に「グッド」、下に「もっと」を書くようにしているので、上から順に読んでいくと、上司はいいところを必ず褒めることができます。そのあとで「もっと」を読めば、「実はこういったところも改善してほしいと思っていた」など、的確かつ率直なフィードバックがしやすいんです。

井上:先にポジティブフィードバックを伝えて本人を認めたうえで、「今後はこうしたほうがいい」と伝えると、ただ改善点だけ伝えるよりも腹落ちしやすくなるんですよね。その点においても、褒めるフィードバックを礼儀として言い合う空気を作るべきだと考えています。

藤本:私が海外のメンバーとミーティングしていていつも思うのは、非常に褒めるのがうまいということ。こちらの意見に対して、必ず「本当にいい意見をありがとう」と褒めるんです。だから、そのあと辛辣なフィードバックをもらっても、最初に褒めてもらったことで気持ちが幾分かやわらぐんですよね。これは見習うべき点だなと思っています。