フィードバックを得られる環境がキャリア自律を促す
株式会社サイバーエージェント常務執行役員CHO
上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年に人事本部長に就任。現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。キャリアアップ系YouTuber「ソヤマン」としてSNSで情報発信しているほか、『若手育成の教科書』などの著作がある。
藤本:社会変化が激しい今、パネリストの皆さんは、社員がキャリアについて悩む声を聞くこともあると思います。それに対し、企業としてどのように取り組まれていますか?
井上:キャリアは、その人の強みを見える化するものでもあると考えています。他者から「すごいね」と言われることで初めて、当たり前にやっていることが自分の強みだと気づけるものです。しかしコロナ禍では、他者からポジティブなフィードバックを受ける機会が少なくなっています。一人ひとりのキャリアをより豊かにするためには、その人の強みを他者からフィードバックしてもらって見える化する必要があるんです。その点で、これまで社内で交わしていた雑談は、本人の無意識を意識として顕在化させる役割を担っていたのではないでしょうか。
弊社では、対面で会わせる機会も、デジタル空間の中で会わせる機会も積極的に用意しています。そして場の提供に限らず、一人ひとりの強みを意識的にフィードバックしあえる組織にしようとさまざまな働きかけを行っています。たとえば自己紹介の際に、好きなことや趣味など、人となりが見えるような情報をシェアしてもらい、コミュニケーション活性化のきっかけにしています。こうして一人ひとりが自律的に発信することで、自律した組織になっていくと思うんです。会社が与えるだけではなく、個々が自律する。そして、自走できる組織にすることを意識しています。
酒井:弊社では最近、社員に「キャリアの健康診断」を実施してもらうようにしています。健康診断で体のことを考える機会があるように、自分自身の生き方やキャリアについて考える機会も必要です。
キャリアの健康診断を行うためには、自分で考えるだけでなく、他者からの評価を知ることが大切です。そこで、社員にもビズリーチを開放し、自分の市場価値を知ってもらうことにしました。その結果、社員が転職してしまうかもしれませんが、それでも選ばれる会社であるよう努力することも会社の義務だと思っています。
藤本:面白いですね。キャリアの健康診断によって、改めて今の会社のよさや自分がここにいる理由に気づけるわけですね。
酒井:そうですね。第三者を生かして自分のキャリアや自分自身を理解することは、非常に大事な活動だと思います。生き残るために変化できるかどうかは、社会の変化を実感できるかどうかにかかっているんです。直近のコロナ禍で社会が変わり、それによって会社が変わり、個人も変わらなくてはならない状況になりました。だからこそ、キャリアを見直そうという風潮は広がりつつあります。
曽山:井上さんがおっしゃった「フィードバック」が、まさにキーワードですよね。今は、フィードバックに格差が生まれてしまっているんです。たとえば人的ネットワークが強い人は、声をかけられてさまざまな場に出ていき、さらにまた声がかかる……という好循環が生まれます。しかし、新入社員には声がかかりませんよね。このような事態が社内で起きているんです。仕事も顔見知りに振ってしまい、若い人が置いてきぼりになっている。そのため、上のポジションの人が若い人に期待をかけ、その声かけをすることが今まで以上に重要になっています。
今は、人的ネットワークのコンフォートゾーンができてしまっている状態です。自らそこを抜け出してチャレンジゾーンに移らなければ、いつまでも声をかけてもらえなかったり引っ張り上げてもらえなかったりする。サイバーエージェントでは、週3日の原則出社日を設けて、「この日に出社すれば他の人と会える」という状態をあえて作っています。そのような機会を生かして、ぜひチャレンジゾーンへ出ていってほしいですね。