篠田真貴子さんが絶賛した『チームが自然に生まれ変わる──「らしさ」を極めるリーダーシップ』。新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「無理なく人を動かす方法」が語られた一冊だ。
リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。
認知を「リバウンド」させない工夫
──アファメーション
自分自身にせよ、他人にせよ、あるいは、一定規模のチーム・組織にせよ、なんらかの「行動変容」を引き起こしたいのであれば、まずはその人・組織の根底にある「内部モデル(=ものの見方)」そのものを更新しなければならない。
いくら「努力」して行動を変えようとしても、人には「元どおり」になろうとする心理的ホメオスタシスが働くからだ。
内部モデルを変えるときには、まず「Have to(=やりたくないけれど、やらねばならないと思っていること)」を捨てていくことが必要になる。
そこでカギになるのが、「決断」という手法だった。
これについては以前の記事でも紹介したとおりだ。
とはいえ、たとえいったん決断を下して、これまでのHave toを捨てられたとしても、必ずしも安心はできない。
あなたが「それまでの現状」に没入していたのは、社会のなかにそれを強いるような圧力が存在しているからだ。
VRが生み出す仮想世界の臨場感が、ゴーグルを外した途端に消えてしまうのと同じように、真のWant toによって生み出した「新しいゴール世界」の臨場感は放っておけば次第に薄れていき、「元の現実」へと戻ろうとする心理的ホメオスタシス(恒常性)が復活してしまうことがある。
これを避ける意味でも、「現状の外側」への没入を「維持」する工夫が必要だ。
よくあるのが「決断を他人に宣言する」「ゴールを復唱する」などの行為だ。
それ以外にも、「目標を紙に書いて、部屋の見える場所に貼っておく」というよくあるやり方も、「現状の外側」への臨場感を維持する手段として一定の有効性がある。
自分の決断をあえて口に出して語ったり、文字として視覚化したりすれば、「その未来があたりまえにやってくる」という認知モデルが脳内で強化されていくからだ。
経営者が自社の経営理念を社員に繰り返し語ったり、スタートアップの起業家がいわゆる「ピッチ」で自社の未来像を投資家に向けてプレゼンしたりするのにも、同じような効果が認められる。
これらは本来、他者を自分のゴール世界に巻き込むことを目的としたアクションではあるが、「自分が実現したい世界」を何度も語り、その言葉を磨き上げていくうちに、ほかでもなく当人がその世界への没入度を高めていくことになる。
それ以外におすすめな方法が「アファメーション」だ。
アファメーションとは、ゴール世界への没入を一発で呼び起こす言葉である。
それを唱えることでゴール世界への没入が高まるなら、どんなフレーズでもかまわない。
それを決めたら、ふだんの身の回りにその言葉を埋め込んでいこう。
たとえば、「プロフェッショナルのマーケターとして活躍したい」という想いを持っている人であれば、PCのログインパスワードを「iamamarketinggenius」と設定してみるのはどうだろうか。
すると、PCを開いて何か作業をはじめるたびに、毎回、「私は天才マーケターだ」と自分に言い聞かせることになる。
頭のなかで想像を膨らませるだけでなく、無自覚のうちに行っている日常のルーティンのなかにアファメーションを組み込んでいこう。
リアリティを感じるプロセスにおいて、脳はそれが現在のことなのか、未来のことなのかを区別しない。
「現状の外側」があたりまえになるような認知環境をデザインし、自分の内部モデルをゴール世界にできるだけ近づけていくのだ。
逆に、ゴール世界への没入を妨げるような要因は、なるべく遠ざける必要がある。
「現状の外側」にあるゴールを設定したとき、あなたのまわりには「そんなことできるはずがない」「そんなゴールは現実的じゃない」という「アドバイスもどき」をしてくる人が現れるかもしれない。
コーチングの世界などでは、こういうキャラクターは「ドリームキラー」と呼ばれ、敵視されている。
エフィカシー・ドリブン・リーダーシップにとっても、ドリームキラーはできるかぎり遠ざけるべき存在だ。
彼らの「助言」は、新しいゴール世界への没入を邪魔して、元のホメオスタシスが猛威を振るう世界に引きずり戻す作用を持つからだ。
以上のプロセスを丁寧に実行していけば、あなたの人生を通底する「真のWant to」が少しずつ顔を出してくる。
「これのためになら、いくら時間を費やしてもいい!」「本当はずっとこれをやりたかったのだ!」──心からそう思えるものは、誰にでもある。
ただ、これまでのあなたは、それに目を向けられないでいただけだ。
そして、その「真のWant to」を見つめているあいだだけは、「これならやれるかも……」「自分にもできる気がする……!」というわずかな手応えが感じられるのではないだろうか?
その感覚こそがエフィカシーだ。
最初はどんなに小さな種火でもかまわない。
あとはそれを大きく育てて、さらにはチーム・組織に広げていきさえすればいいのだ。
次回以降はそのための準備プロセスを紹介していくことにしよう。
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★篠田真貴子さん大絶賛!!(エール株式会社取締役)
「まず個人のwant to があり、それが組織のパーパスと重なっていく。そんなチームだらけの世の中にする本」
指示しない。管理しない。
それでも「成果」がついてくる
新時代のリーダー論。
「やる気・根性・ノルマ」で人はもう動かない。
本音の見えないリモート時代に「最高のチーム」をつくるには?
「組織開発のプロ」と「AI企業の経営者」が語る、
人の認知メカニズムに最適化された「新時代のリーダー」のための思考法!!
◎主な内容◎
はじめに あなたの職場はなぜ「たるんでいる」のか?
第1章 内側から人を動かす
第2章 エフィカシーの認知科学
第3章 リーダーはHave toを捨てよ
第4章 パーパスを「自分ごと化」する
第5章 メンバー全員Want to
第6章 組織のパーパスをつくり、浸透させる
思うように身動きがとれないリーダーの方へ
──著者からのメッセージ
「リーダーの現実はどうにもならないことだらけ。こんなのは理想論だ!」──そんな想いが胸の内で渦巻いている方もいらっしゃるのではないかと思います。
たしかに、リーダーの目の前には膨大なHave to(やらなければならないこと)があります。しかもそれぞれのメンバーは、ロボットでも動物でもありません。バラバラな価値観に従って、各々に行動する独立した人間です。自分だけならまだしも、チーム全員の視線を「現状の外側のゴール」に向けさせていくなんて、そんなことが可能なのか。結局のところ、理想論じゃないのか。そう思われても仕方ないのかもしれません。
しかし、人を動かすのは、やはり「理想」です。これは歴史が証明してきた事実です。
人間の脳には「心理的ホメオスタシス」があり、とにかく「現状」からの変化を嫌がります。それは人類が持っているうちでも最も強固な「本能」の1つであり、「チームの熱量」を保つうえでの最大の障壁です。
だとすれば、そんな脳のクセを“ハック”するしかありません。どうやっても心理的ホメオスタシスに打ち克てないのならば、脳が元に戻ろうとする基準点そのものを「現状の外側」に移してしまえばいい。そうすれば、人の行動はおのずと変化します。既存のものを元にゴールを設定していては、いつまで経っても自分でそれを超えることはできません。ゴールは自らが創造するものなのです。
そして、そのカギになるものが「セルフ・エフィカシー(自己効力感)=ゴールの達成能力に対する自己評価」です。もう少し砕けた言い方をするなら、「自分はそれを達成できる気がする……/できる気しかしない!」といった“手応え”のようなものです。
人や組織は、実際に「いま、ここにないもの」を生み出すことができる存在です。
その意味で、「エフィカシーを駆動力にするリーダーシップ」は、決して理想主義者のためのものではありません。それどころか、組織やチームの変革を心から望んでいる「徹底したリアリストのための方法論」なのです。
私が関わってきた数々の企業では、いつもどこかで「組織の平熱」が高まりはじめる瞬間がありました。「自分たちならこの途方もないゴールを達成できるんじゃないか。いや、必ず達成できるはずだ!」──そんなふうにパーパスとエフィカシーとの折り合いがつき、経営トップから現場メンバーの全員が「その気」になった瞬間がありました。
ぜひその「瞬間」をあなたがつくってください。
自分の人生にオーナーシップを感じられない人間が、他者のリーダーになれるでしょうか?
自分を内面から導けない人が、他者の内面を導けるでしょうか?
そんなはずはありません。まず変わるべきはリーダー自身なのです。
ですから、リーダーとしての現状に疑問を感じたら、何度でも自分にこう問い直してみていただきたいと思います。
「私はいま、自分自身のリーダーであることができているか?」
この記事を読んでくださったリーダーのなかには、イノベーションに向けた変革の渦中にあり、矢面に立たされている人もいるでしょう。チーム・組織の「現状維持」すらも心許ない状況で、「現状の外側」のゴールを思い描くことなんてとてもできそうにない人もいるでしょう。
たしかにリーダーを取り巻く環境は、決して甘いものではありません。しかし、そんな人にこそ「エフィカシー・ドリブン・リーダーシップ」の考え方を知っていただきたいという思いで、『チームが自然に生まれ変わる──「らしさ」を極めるリーダーシップ』という本をしたためました。
他人が求めるHave to に押しつぶされそうなときこそ、あなた自身のWant to に、自分たちのパーパスに目を向けてください。現実のなかに答えはありません。現実を突破するのは、いつだって理想です。
「らしさ」を極めたその先に、「最高のリーダーシップ」を発見していただければと思います。
■執筆者紹介
李 英俊(Lee Youngjun)
マインドセット株式会社代表取締役/コンサルタント/エグゼクティブコーチ
2003年、新卒で外資コンサルティングファームに参画し、官公庁・民間企業向け事業再生・組織変革に従事。その後、インキュベーター企業で新規事業開発のプロフェッショナルとして活躍したほか、戦略人事機能を担当する執行役として同社IPOに貢献する。
2008年より、歴史的文化財の利活用にフォーカスした国内屈指の事業再生企業で、コンサルタント・戦略人事・マーケティング管掌の取締役に。大規模再生案件プロジェクトを推進する傍ら、急成長企業である同社を「働きがいのある会社」ランキング(GPTW)に5年連続で入賞させる。
2016年、マインドセット株式会社を創業。代表取締役を務める。次世代経営リーダーの育成、自己変革に取り組む発達志向型組織へのサポートをするため、組織開発コンサルティングを行うほか、プロフェッショナルコーチ養成機関を主宰。イノベーションと戦略人事機能が交差する領域で、急成長ベンチャーから大企業に至るまで組織の規模を問わず、コーポレートゴールの達成とエフィカシーの高いカルチャー創りを支援している。
トレーナーとして、過去19年間で2400回以上、4万時間以上の指導実績を誇る。また、プロアスリート・運動指導者・起業家・イノベーターに向けた身体開発・操作能力向上の指導も手がける。2021年9月には、最新のウェルネスとAIテクノロジーを掛け合わせた次世代ウェルビーイング複合施設「Yawara」を東京・原宿にオープン。著書に『チームが自然に生まれ変わる』(ダイヤモンド社)がある。
堀田 創(Hotta Hajime, Ph.D.)
株式会社シナモン 執行役員/フューチャリスト
1982年生まれ。学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事し、25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。
2005・2006年、「IPA未踏ソフトウェア創造事業」に採択。2005年よりシリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業したのち、同社をmixiに売却。
さらに、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供する最注目のAIスタートアップ「シナモンAI」を共同創業。現在は同社のフューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。
「イノベーターの味方であり続けること」を信条に、経営者・リーダー層向けのアドバイザリーやコーチングセッションも実施中。認知科学の知見を参照しながら、人・組織のエフィカシーを高める方法論を探究している。マレーシア在住。
著書に『ダブルハーベスト』『チームが自然に生まれ変わる』(以上、ダイヤモンド社)がある。