リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

「優秀なのに雑用まみれの人」と「平凡なのに圧倒的成果を出す人」の根本的な違いPhoto: Adobe Stock

「雑用こそリーダーの役目だ」
という考え方のワナ

 個人にせよ、チームにせよ、内部モデル(=ものの見方)そのものを大きく変更しない限り、行動に変化は起こらない。いくら「努力」や「意識」によって行動を変えようとしても、「元どおり」になろうとする心理的ホメオスタシスが働くからだ。

 そこでカギになるのが「真のWant to」をベースにしたゴール設定だ。「心の底からやりたいこと」を見極めるときには、「Have to(=やりたくないけれど、やらねばならないと思っていること)」を洗い出し、それを捨てることが必要になる。

 過去の記事では、Have toを捨てる際に、まず大切な「決断」の役割について見てきた。

 実際に決断を下せたら、実際にそれらを手放していこう。

 ただ、「Have toを捨てる」とひと口に言っても、いろいろなパターンが考えられる。

・そもそも必要がなく、放棄しても問題のないHave to
・自分がやる必要がなく、ほかの手段で代替可能なHave to
・自分がやる必要がなく、ほかの人に権限委譲できるHave to
・どうしてもやる必要があるが、Want toを感じられないHave to

 ここで重要なのは2つめと3つめだ。これは「捨てる」というより「任せる」と言ったほうがいいかもしれない。

 とくにリーダーの立場にある人は、つい「誰の仕事でもない雑務」を膨大に抱えがちだ。

 そのため、チームのなかの誰よりもHave toにまみれた状態になってしまう。

 自分で仕事を抱え込むのではなく、ほかに任せられる人はいないかを積極的に検討しよう。

 なんでもかんでも、メンバー任せにすればいいということではない。

 とくに軸にすべきなのが「得意かどうか」という観点だ。

 ある特定の業務が苦手なら、それが得意な部下や仲間に権限委譲するようにしてみよう。

 その分、リーダーはHave toから解放されるし、メンバーもWant toに近い領域で能力を発揮できるようになる。

 結果的にチーム全体のセルフ・エフィカシー(自己効力感)の向上にもつながるはずだ。

「人にあっさり任せてしまう」という傾向は、卓越した才能を持つ起業家にはよく見られるものだ。

「自分は何でもできる」と思っている起業家は意外と少ない。

 むしろ、優秀な人ほど、「チームの力を借りないと自分は何もできない」と自覚している。

 だからこそ、誰かに丸投げしてしまうことにためらいがないのだ。

 逆に、雑務を抱え込んでしまうリーダーは、心のどこかで「自分はこれが得意なのだ」「自分のほうが優秀なのだ」と思ってはいないだろうか?

 しかし、雑務処理やトラブルシューティングにしかエフィカシーを感じられないリーダーは、結果的にはチーム全体のエフィカシーを低下させることになる。

 リーダー自身がHave toを振り切って、Want toに向かって突き進む姿勢を見せる必要がある。

 仕事を任せる先は、人間だけとはかぎらない。いまやAI(人工知能)などの精度もかなり上がっているからだ。

 しかも現代においては、業務のまるごと全部をAIで代替する完全なオートメーションよりは、ワークフローの一部にAIを組み込んで人間との協働を果たす「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)」のようなモデルが一般的になっている。

 このトレンドがさらに加速していけば、人々が抱えているHave toは、ますます手放しやすくなっていくだろう。

※このあたりは堀田の前著『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』(尾原和啓氏との共著、ダイヤモンド社)を参照されたい。

 最後に、なかなか捨てるのが難しい(それにもかかわらずWant toを感じられない)Have toもいくつか手元に残るだろう。

 そういうときは、その仕事の意味合いを自分なりに変換できないかを考えてみるといい。

 たとえば、あまり思い入れのないプロジェクトのリーダーに選ばれてしまった人を考えてみよう。

 彼女は、プロジェクトが目指すものには面白みを感じられないが、人の成長には強い関心があるとする。

 もしそうなのであれば、メンバーとして参加することになった後輩の成長機会として、このプロジェクトをとらえ直してみればいい。

 そうすることで、この仕事自体も純粋なHave toではなくなる。

 重要なのはHave toを捨てることそのものではなく、自分の周囲をWant toで満たすことだ。

 その意味では、「Have toをWant toに変換する」というテクニックも、Have toを捨てていくうえでは非常に有効である。