リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

「毎日の惰性から抜け出せない人」と「大きな決断ができる人」との圧倒的な差Photo: Adobe Stock

「捨てる決断」をするからこそ、
「捨て方」が見えてくる

 誰もが「捨てることは難しい」と言う。

 しかし、捨てることを先に「決断」できてさえいれば、「どう捨てるか」に悩むことは圧倒的に少なくなる。

 決断することで脳内には新たな情報処理パターン(内部モデル)が構築されるため、「どう捨てるか」の認知にも変化が訪れるからだ。

 以前は考えもつかなかった捨て方が見えてきたり、そもそも思っていたほど捨てるのが難しくないと気づいたりもする。

 たとえば、会社を辞めて起業する人の場合。

 毎月の安定した給料をもらいながら、自分と家族を養っている彼は、たくさんのHave toを抱えている。

 心のどこかでは会社を辞めて独立したいと感じているが、どのような手順を踏めばいいのかがわからず、モヤモヤをずっと抱えている。

 この状態を解消するための明快な方法は、まず「会社を辞める」と決断してしまうことだ。

 辞める理由を家族や上司にどう伝えるのかはわからない。

 辞めたあと、どうやって生活していくのかもひとまず考えない。

 いつどうやって辞めるのか、プロセスはまったく見えていない。

 ただ、とにかく脳内ではっきりと「会社に所属する現実」のほうをまず捨ててみる。

 まず「会社に所属する」を頭のなかから消すことをイメージしてみよう。

 そうやって「会社を辞めた世界」のほうに臨場感を移していくのだ。

 そうすることで初めて、あるべきプロセスが見えてくる。

 独立に向けてどれくらいの準備期間が必要なのか、どのタイミングで上司に伝えるか、家族にはどんなふうに説明するか。

 決断を先行させることで、自分なりにベストだと思えるやり方が浮かび上がってくる。

未来を「先取り」する認知環境のデザイン

「なかなか行動を起こせない」という人は、「決断」の重要性をわかっていない。

 だからこそ、プロセスばかりに目が行ってしまう。

 やってみたい仕事があって、ある資格の取得にチャレンジしている人を考えてみよう。

 試験勉強をするために早く帰宅するようにしているものの、やらないといけないことがいろいろあって、なかなか時間をつくれない。

 気づくとスマホで動画を見ていたり、だらだらとテレビを見てしまっていたりする。

 本やインターネットで「時間術」や「勉強法」についての情報を集めたりしているが、いっこうに試験勉強が進まない……。

 こういう惰性を抜け出せない人に不足しているのも「決断」だ。

 惰性でついやってしまう行動というのは、典型的なHave to(やらねばならないと思いこんでいること)である。

 だとすれば、やるべきことはシンプルだ。

 勉強時間確保の障害となっている惰性のHave toを捨てる「決断」を下せばいい。

 たとえば、試験日までのスケジュール帳の毎晩20~22時に「勉強」と書き込んで、「毎晩勉強している自分」をまず先取りしてしまおう。

 これが「現実」になったときのことを考えると、これまでどおり夕食づくりや洗い物・洗濯などに時間をとられているわけにはいかない。

「どうすれば、これらのHave toから逃れられるだろうか?」という思考が進みはじめる。

 また、テレビを見すぎてしまうなら、テレビそのものを廃棄するのもいい。

 これからは毎晩20~22時に勉強をしているのが「あたりまえ」の生活がはじまるのだから、その「新しい現実」のなかではテレビは必要ないはずだ。

 この例でもわかるように、決断には一定のコツも存在する。

 典型的なのは、自分が「何かを決断した」「捨てることを決めた」という手応えが得られるような「儀式」や「イニシエーション」をセットにするというやり方だ。

「予定を書き込む」とか「テレビそのものを捨てる」といった行動は、「現状の外側」を先取りする効果があり、その未来への没入感を高めてくれる。

 自分が決断をした日にちを「記念日」として設定し、来年以降も同じ日にスケジュールを入れよう。

 1年後の今日に、「あの日を境に、自分の内部モデルが更新されたんだな」と振り返っている自分を想像してみよう。

 儀式やイニシエーションには人に決断を促し、内部モデルを変更させる効果がある。

 結婚式を挙げた夫婦と挙げていない夫婦を比較すると、前者のほうが離婚率が低いというデータはご存じの方も多いだろう。

 社員を昇格させたり異動させたりする際に、いまだに辞令を紙で貼り出したり、わざわざ任命状を手渡ししたり、全社員の前で就任のあいさつをさせたりする会社もあるだろう。

 これらは形骸化した慣習として馬鹿にされることも多いが、決断という観点からすると、一定の合理性はあると言える。

 自分の名前の横に「課長」と書かれた名刺を渡されて初めて、脳は「どうやら自分は課長になったのか」と感じはじめる。

 実現したい未来を先取りする認知環境をデザインすれば、脳はそれに合わせて内部モデルを調整しはじめる。

 これを繰り返していけば、自分で内部モデルを書き換えていくことも不可能ではない。