篠田真貴子さんが絶賛する『チームが自然に生まれ変わる──「らしさ」を極めるリーダーシップ』は、新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った一冊だ。
リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

「すぐサボろうとする人」と「ずっと努力できる人」の根本的な違いPhoto: Adobe Stock

チームの「平熱」を変えるには?

 世の中には「なるべく意識して○○するようにしましょう」とか「もっと○○するように気をつけましょう」といった「隠れ根性論」のメッセージが溢れている。

 表現こそマイルドではあるが、これらがやっているのは「心理的ホメオスタシス(恒常性)」という本能の否定だ。

 こういう助言を真に受けて、自分のホメオスタシスとがむしゃらに戦い続けていると、心のほうが壊れてしまいかねない。

 強調しすぎても強調しすぎることはないが、どんなにがんばっても人はホメオスタシスには勝てない。

 いくら戦っても、負け戦になるのは最初から目に見えている。

 心理的ホメオスタシスを、個人の「意思」とか、外部からの「フィードバック」とかでどうにかしようとしない──それこそが心理的ホメオスタシスを克服するうえでの第一歩である。

 つまり、その作用の裏をかくような、ある種の工夫が必要なのだ。

 チームのパフォーマンスが上がらないときに、目標数値に対する進捗レポートを毎日提出するよう、メンバーたちに義務づけたとしよう。

 進捗レポートが順調であれば上司から褒められるし、そうでなければ叱責や評価下落が待っている以上、各メンバーはしっかりと結果を出そうとする。

 そのため、こうした外側からの働きかけは、短期的には効果を発揮するだろう。

 しかし、各メンバーやチームのコンフォートゾーンは、もっと低いところにある。

 マネジャーが目を光らせているうちは、義務づけられたアクションを取ろうとするが、そうしたプレッシャーがなくなると、「元に戻ろうとする力」が一気に働く。

「リモートワークになった途端にパフォーマンスが落ちた」というチームのメンバーたちは、決して悪意があってサボっているわけではない。

 外因的な刺激がなくなったことで、元どおりのコンフォートゾーンに立ち返ったにすぎないのだ。

 ここからもわかるとおり、外因的なリーダーシップは、心理的ホメオスタシスを克服するうえでもうまく機能しない。

 ではいったい、どうすればいいのか? 結論を先に言おう。

 そのためにはホメオスタシスの「基準点」となるコンフォートゾーンそのものを動かしてしまうしかない。

 つまり、「現状」とは異なる世界に臨場感の軸をずらし、脳が本能的に引き返そうとする基準点を変えてしまうのだ。

 生理学的なホメオスタシスで言えば、これは「平熱」を変えることに等しい。

 いつも平熱36.5度を保っていた人が、いきなり宇宙人に身体を改造され、平熱55.5度のサイボーグに変身したとしよう。

 どれだけ高温のサウナで過ごそうとも、どれだけ極寒地を歩こうとも、しばらくすれば体温は55.5度に戻ろうとする。

 その新しい身体が生存していくうえでは、「体温55.5度」こそが最も自然で心地よい状態だからだ。

 もちろん、これは単なるSF的な思考実験であり、現実にはまずあり得ない。

 だが、心理的なホメオスタシスについて言うならば、こうした「平熱」の書き換えは可能だ。

 それこそが「内部モデルの変革」である。

 世界の認知の仕方が変われば、当然ながら、心理的ホメオスタシスが参照する基準点も変わる。

 その人の脳にとって自然で心地よい場所が「現状とは別のリアリティ」に移ってしまえば、「これまでの現状」のほうがかえって居心地の悪い、どちらかというと不快なものに感じられるようになるはずだ。

 無意識は「これまでの現状」から抜け出し、より臨場感のある「新しいコンフォートゾーン」に戻ろうともがくため、おのずと行動が生み出される。

 誰かに命令されたからとか、金銭的な報酬がほしいから動くわけではない。

 内因的な原理によって「自発的にやるべきことをやる状態」が実現するのだ。