篠田真貴子さんが絶賛した『チームが自然に生まれ変わる──「らしさ」を極めるリーダーシップ』。同書は新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った一冊だ。
リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。
会社は本来、
「現状の外側のゴール」を持っている
決断によってHave to(やりたくないけれど、「やらなければならない」と思いこんでいること)を捨て、「真のWant to(やりたいこと)」に臨場感が移れば、人は高い熱量と高いセルフ・エフィカシー(自己効力感)を保ち続けられるようになる。
これは言い換えるなら、「自分が自分のリーダーとなった状態」だ。
個人事業主やフリーランサーとして生きている人であれば、これだけで十分かもしれない。
しかし、あなたが組織に所属するリーダーであり、複数の人を動かしていく立場にある場合には、個人のWant toを駆動力にするだけでは足りない。
「組織が実現したい未来」と「個人が実現したい未来」との接合点を探り、そこを「現状の外側」のゴールとして設定していくプロセスが不可欠だ。
なぜだろうか? 今回はこの点について見ていくことにしよう。
企業や組織は一定の目的を持って存在している。
たとえそれが覆い隠されたり埋もれたりして、表面からは見えなくなってしまっているとしても、根底には「こんな未来が実現するといいな」という未来像がある。
これが組織に内在する「真のWant to」だ。
組織が思い描く未来が単なる構想の域を出て、明確に「現状の外側」のゴールとして設定されたとき、それはパーパス(Purpose)と呼ばれる。
経営とは、手元にある全リソースを活用して、パーパス実現に向かう活動である。
そのリソースのうち、最も大きなウエイトを占めるのが人的資源(Human Resource)だ。
リーダーの役割は、組織内の人的資源を動かすことで、パーパス実現に寄与することである。
その際に有効なのが、『チームが自然に生まれ変わる』のなかで具体的に紹介している「内因的な原理を軸とするリーダーシップ(エフィカシー・ドリブン・リーダーシップ)」だ。
これは、各人の内部モデルの基準点を「現状(Status quo)」から「現状の外側にあるゴール世界」へとシフトさせ、心理的ホメオスタシスが働くベクトルを書き換える。
ゴール世界への臨場感が高まった結果、個人およびチームのエフィカシーも高まり、外的刺激がなくても自然に行動変容が起こるというわけだ。
このとき設定される「現状の外側」のゴールは、ただただ「個人のWant to」に根差してさえいればいいかというと、じつはそうではない。
個人が本音中の本音で実現を望むWant toとは、その人がもともと持っている根源的な価値観である。
組織やチームのなかで働くメンバーそれぞれが、個人の価値観だけを参照点にすれば、当然のことながら組織は崩壊する。
各人の行動が統一的な方向を持たず、勝手にやりたいことをやっているだけになってしまう。
そこで役に立つのが、「組織のWant to」に根ざすパーパスである。
パーパスは、Want toに基づいた個々人の行動を方向づける働きを持つ。
このとき必要なのは、「組織が実現したい世界」と「個人が実現したい世界」とが重なる部分を見出し、それを個人のゴールとして設定していくことだ。
「個人として何を成し遂げたいのか」を明確にしたうえで、所属組織の掲げるパーパスと重なる部分を見つけ、それを「個人のゴール」に変えていくわけだ。
このように、リーダーシップにおいては、組織のパーパスを各人の価値観に合わせてパーソナライズする「パーパスの自分ごと化」というプロセスが重要になる。