「サウナ」のいちばんの効果とは?

2020年の発売以降、「エビデンスが豊富で説得力がある!」「今すぐサウナに行きたくなる!」などの感想が続々寄せられ、サウナブームを牽引してきた『医者が教えるサウナの教科書』。著者は、がん研究のスペシャリストで慶應義塾大学医学部腫瘍センター特任助教の加藤容崇さん。「元々サウナ好きだったわけではなく、むしろ効果を怪しんでいました」と言う加藤さんだが、2018年の秋、熟練者に連れられてサウナに入った結果、魅力に取りつかれた。それ以降、膨大な論文をよみあさり、被験者を集めて実験し、エビデンスに基づいてサウナの効果や正しい入り方をまとめたのが本書だ。今回は、「サウナは体に悪いのでは?」と思っているサウナ初心者に向けて、サウナの実態をお聞きした。(取材・構成/森本裕美、撮影/疋田千里)

サウナは運動同様、正しく行えば体にいいし間違った方法では害になる

――2020年の3月に出た著書「医者が教えるサウナの教科書」は、すでに6刷で4万部突破(紙、電子合わせ)しているそうですね。

加藤容崇(以下、加藤):はい、ありがとうございます。多くの方に読んでいただいて、正しいサウナの知識や効果をお伝えできるのはとても嬉しいです。

――先生の本の後にも、サウナブームでたくさんの書籍が出版されましたが、それでもまだ、サウナは体に悪いのではと思っている人も多いと思います。それはどうしてだと思いますか?

加藤容崇:芸能人が「サウナで倒れた」っていうニュースが多いからじゃないですか? でも、倒れてしまうのは、正しい入り方をしていないから危ないっていうだけなんですよね。

それは運動も同じです。無理にマラソンをして心筋梗塞を起こしてしまう方もいますよね。だけどニュースにはならないし、運動が体に悪いって言う人は一人もいないじゃないですか。

でも、サウナはなぜかニュースになる。それは、サウナには運動のような「正しく行えば体にいいし、間違ったやり方をすれば体に悪い」という真っ当なイメージが、まだついていないからだと思います。サウナもかなり体に負担がかかるので、適切な入り方をしないと逆効果になります。

――なるほど。でもやっぱり、サウナは体に負担がかかってるんですね。

加藤:もちろんです。100度近いサウナに入って、その後水風呂に入るなんて、体にとっては大きな負担になります。僕も昔は「水風呂なんて拷問だ」と思っていました。でも、そうやって体に少し負担をかけて、脳と体をリセットできる。その結果、多くの健康効果を得られるんです。

――その分、正しい入り方をしないとこわいですね。

加藤:いまだにサウナを我慢大会のように考えている方がいますが、それは絶対にやめてください。「気持ちいい」と思えることが何より大事です。だからこそ、本を読んで正しい入り方をしてほしいと思っています。

睡眠の質が上がることで、脳疲労が根本的に取れる

――本の中に「サウナは脳疲労が取れる」と書かれていましたね。サウナにこんな効果があるなんて驚きました。

加藤:サウナでしか得られない一番の効果は、入るだけで脳疲労が取れることです。脳疲労は他の手段ではなかなかすぐにとるのが難しい。だから、いわゆる「仕事ができる人」はサウナー(サウナ愛好者)であることが多いんですよ。しかも、こういう短期的な効果に加えて、心臓病や認知症になるリスクが低下したり、うつ病予防に効果が期待できるなど、長期的な効果に関する論文も多数報告されています。

――脳疲労が取れるということについて、もう少し詳しく教えてください。

加藤:本にも書きましたが、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)の消費量が減るということが関係しています。DMNは、ぼーっとしている時にも働いてしまう脳回路で、脳の70~80%のエネルギーを消費します。だから、脳が最大限のパフォーマンスを発揮できるようにするためには、DMNの消費量を減らすことが大切です。

サウナに入ると熱いから、あれこれ考える余裕がないですよね? 実際にサウナ中に脳血流は低下しています。それはつまり、強制的に思考を停止させられるということ。その結果、DMNの消費量が減り、脳がスッキリするんです。

――それは一時的な効果なんですか?

加藤:そうですね。ただ、それよりも、脳疲労を根本的に取る効果というのは、睡眠なんですよね。そもそも、脳疲労というのはアデノシンという物質が脳内に蓄積することで起きるということが言われていますが、このアデノシンを一掃するためには、睡眠の質というのがすごく大事です。つまり、サウナに入ることで一時的に脳がスッキリする。そして、睡眠の質がよくなることで、本当に脳疲労が取れるということです。

――サウナに入ると睡眠の質がよくなるという話は、本にもありましたね。先生ご自身が被験者となってデータを集めたんですよね?

加藤:はい。サウナに入っても壊れない活動計をつけて、サウナに入った日、入らなかった日、それぞれ5日間、睡眠の状態を比較しました。すると、サウナに入った日は「深い睡眠」の時間が約2倍になりました。しかも、寝入りの段階で深い睡眠を得られるので、短時間の睡眠でスッキリ感じられます。

――先生の平均睡眠時間はどれくらいですか?

加藤:最近はやることが増えているので、4時間くらいですね。短い睡眠時間を誇ることは良くない風潮だと思いますが、基本的に毎日サウナに入っているのでこれくらいの睡眠時間でも、調子はすごくいいです。サウナに入っていなかった頃と、入るようになった今を比較すると、仕事のパフォーマンスは1.5倍くらい上がっているかもしれません。あくまでも感覚的な数値ですけどね。