メーカー(製造業)には自動車、電機、食品……などさまざまな業種がありますが、いずれも「商品をつくって顧客に届ける」という点は共通です。そして、どの商品が、いつ、どこで、いくつ売れるのかを予測する「需要予測」は、どの部門が担う仕事なのか? また「デマンドプランナー」の仕事とは何なのか? メーカーを目指す人ならぜひ知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
「需要予測」は簡単に言うと、次のような点を予測する業務です。
・いつ
・どこで
・いくつ売れるのか
メーカービジネスの中では、生産部門とマーケティング部門の間に位置づけられています。というのも、どの商品を(Product)、どこで(Place)、いくらで(Price)、どうやって売るか(Promotion)を決めるのはマーケティング部門であり、「いつ、いくつ売れるのか」をもとに生産が行われるからです。
マーケティング部門は営業部門などとともに、メーカービジネスの需要サイドを管轄します。一方で、生産部門は購買・調達部門や工場、ロジスティクス部門などとともに、メーカービジネスの供給サイドを管轄します。よって、需要予測は大きく異なる二つの機能領域の間に位置し、企業によってどちらに所属しているかが分かれています。
いずれにせよメーカー内の機能であり、顧客のためにできるだけ正確に需要を予測するというミッションは変わりませんが、所属する部門によってバイアス(考え方の偏り)が発生しやすいのも事実です。
具体的には、売上予算をもつマーケティング・営業部門に需要予測機能がある場合、ゲームプレイング(Gameplaying)というバイアスが発生することが指摘されています。「予測の精度以外のミッションが、需要予測の考え方に悪影響を与える」というものです。ゲームプレイングというのは、物事を真剣に考えない、ということを暗に意味し、ほかのミッションによって予測精度を高めることを真剣に考えないという意味で使われているようです。
一例を紹介すると、売上予算達成のためには在庫は十分にあるほうが安心であり、生産につながる需要予測を高くしておこう、といった思考回路があります。これは売上予算の決め方や目標となるKPI(Key Performance Indicator)によりますが、メーカーに入社すればすぐになんらかの事例を見つけることができるでしょう。
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需要予測に関する講演中に行ったアンケート調査から、約140社のうち半数近くが、メーカーの商品供給を全体的に管理するSCM(サプライチェーンマネジメント)部門で需要予測を行っていることがわかりました(図1-4)。つまり多くのメーカーが、そのよび名は知らないとしても、ゲームプレイングの存在を認識していて、それを踏まえた組織設計をしているといえるでしょう。
需要予測機能の価値
異なる属性をもつ複数のグループの間の位置を、経営学ではストラクチャルホール(Structural Holes)とよびます。ストラクチャルホールに位置する人はブローカーとよばれ、グループ間の違いやそれぞれの抱える課題、得意領域などに詳しくなるため、それらを活用した良いアイデアを思いつきやすく、組織において高いパフォーマンスを出すことができるということが研究で示されています。
これを使ってメーカービジネスを考えると、売上予算をもち、顧客や消費者に詳しく、比較的コミュニケーション力が高い人材が多いマーケティング・営業部門と、在庫責任をもち、原材料や品質管理に詳しく、比較的ロジカルシンキングが得意な人材が多い生産、購買などのSCM部門は異なる属性を持つグループといえます。よって、需要予測機能はメーカービジネスにおいてストラクチャルホールとなります(図1-5)。
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実際、需要予測を担うデマンドプランナー(Demand Planner:正式にそう定義している日本企業は少ないですが)は、マーケティングにもSCMにもある程度詳しく、マーケティング部門からは商品供給について聞かれますし、生産や購買部門、工場からは市場について聞かれます。それぞれがもつミッション、それを踏まえた考え方の違いも把握しているため、両者が直面している課題も考慮しながら、企業全体にとって効果的な提案ができます。よって、需要予測は単に需要を予測するだけの機能としてではなく、マーケティングとSCMをつなぐ重要な結節点の機能だと捉えるべき重要なものなのです。