メーカー(製造業)には自動車、電機、食品……などさまざまな業種がありますが、いずれも「商品をつくって顧客に届ける」という点は共通です。そして、よく耳にする「バリューチェーン」というのは、一体何を指すのでしょうか。メーカーを目指す人ならぜひ知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
ビジネス規模(売上規模)や業界、企業ごとの戦略によって、組織の設計はさまざまです。またビジネス環境の変化に合わせ、組織は常に変化し続けている、といっても過言ではありません。実際、筆者らも毎年のように大小の組織変更を経験しています。
一方で、どんなメーカーもバリューチェーン(Value Chain:価値連鎖)に沿って顧客へ価値を提供するという構造は同じであり、それを支える組織の役割分担には多くの共通点があります。
バリューチェーンという言葉は、メーカーのビジネスを知るうえで不可欠です。製造業のオペレーションに関する用語や定義についてグローバルで標準化を推進しているASCM/APICSという団体では、バリューチェーンを次のように定義しています。
企業が消費者に販売し、支払いを受け取る商品やサービスの価値を増大する企業内の機能。
(『サプライチェーンマネジメント辞典 APICSディクショナリー第16版』)
つまり、メーカーが製品やサービスといった新しい価値を生み出し、それを伝達するとともに、顧客に安定的に届け、なにか問題があった時にはすぐに対応して価値を守る、といった一連の流れを指します。バリューチェーンは、図0-5のようにさまざまな機能が連携することによって構成されており、各機能は専門的な組織によって遂行されます。
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バリューチェーンを支える社内の機能
顧客のニーズに応える製品・サービスは、マーケティングを担う部門によって開発されますが、新しい価値を提供するためには、新しい知見や技術が必要です。それを生み出すのは研究開発部門であり、製品・サービス開発を直接の目的としない基礎研究を継続する中で蓄積されていきます。もちろん、あるニーズを満たすことを目的に研究が行われることもありますが、研究には長い期間を要することも多く、常に長期的な目線で研究開発を続けることがメーカーの競争力につながります。
しかしアパレルメーカーでは、自社に研究開発部門をもたないことも多いです。よく見られるのは、洋服などの素材はテキスタイルメーカーが、縫製においても機器メーカーが研究・開発し、アパレルメーカーはそれを採用するといった構造です。つまり、これらの組み合わせで新しい価値を生み出していくことが、アパレルメーカーの一つの競争力といえるでしょう。
こうして設計された製品・サービスの原材料は、購買・調達部門によって手配されます。原材料の品質、価格、納期を購買・調達部門とマーケティング部門で確認し、取引を行うサプライヤーが決まります。
調達された原材料を使って、工場で商品が製造されます。このとき、基準を満たす品質の商品を、安定的に、需要を十分に満たせる量を生産すること(量産化)が重要です。それは商品の設計とは別で、生産部門や工場が確認しなければなりません。
量産された商品は、物流センターで保管され、小売店や卸売業者からの発注に合わせて出荷されますが、このオペレーションを担うのがロジスティクス部門です。実際に商品の配送は協力会社が行うこともありますが、この交渉や管理もロジスティクス部門の仕事です。
メーカーにとっての顧客である小売店や卸売業者へ商品が出荷されると金銭のやりとりを伴うため、この取引を担当する営業部門があります。顧客や消費者からのクレーム、返品への対応や商品に関する問い合わせには、営業部門だけでなく、カスタマーサービスを専門的に担う部門が対応している場合もあります。
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さらに、これらのバリューチェーンを横断的に支えるIT、人事、広報、IR(Investor Relations)、監査、財務・経理といった後方支援部門(バックオフィス)、あるいはメーカーの目指す方向性を決定する経営企画部門などもあります(図0-6)。これらはメーカー特有のものではなく、他業界でも設置されています。