メーカー(製造業)には自動車、電機、食品……などさまざまな業種がありますが、いずれも「商品をつくって顧客に届ける」という点は共通です。では、間違いなく商品が顧客に届けられるように、一体もの(商品)と情報はどのように流れているのでしょうか? メーカーを目指す人ならぜひ知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
メーカーのビジネスは単純化すると、価値のある「もの」を作って顧客に届けることです。メーカーは物質ではない「サービス」も作り出しており、これらを包括した概念が「商品」です。
商品を作る過程には、多くの企業や人が関わっています。各領域のプロフェッショナルが役割分担することで、それぞれの専門性を高め、協力し合うことでビジネスを効率的に推進しているのです。
メーカービジネスを支える機能は、下記のとおりさまざまあります。
●具体的な業務内容
●世界の研究成果
●現実に直面している課題
●現場でのプロフェッショナルの試行錯誤
ところで、この連載では、混同しやすい「製品」と「商品」という言葉を、あえて区別して表記しています。「製品」は生産者の目線、「商品」は販売者や消費者の目線で捉えたよび名です。ビジネスの現場でもこれらは同じものを指す言葉として使われていますが、販売に近いところでは「商品」、生産に近いところでは「製品」とよばれる傾向があります。
原材料から完成品までのものの流れ
拡大画像表示
メーカービジネスにおけるものの流れにおいて最初に登場するのは、原材料を製造する企業群です(図0-3)。完成品(消費者が利用するもの)を製造するメーカーからすると、サプライヤーとよばれます。多くの場合、一つの完成品を構成する原材料は複数あり、メーカーが扱う製品も1種類ではないため、メーカーは複数のサプライヤーと取引をしています。
サプライヤー各社で作られた原材料はメーカーの工場に納品され、そこで製品が製造されます。自社工場をもたないメーカーは他社の工場で製造を行いますが、これはOEM(Original Equipment Manufacturer)生産とよばれます。
ここで作られる製品は完成品やFinished Goodsなどともよばれ、原材料や仕掛品(しかかりひん)(原材料と完成品の中間の状態のもの)などと区別されます。そしてこの完成品が物流センターで保管され、卸売業者や小売店からの発注を受け、商品として出荷されます。物流センターは商品を保管し、出荷する機能を担います。
商品の利用者である消費者は、リアル店舗であれウェブ上の店舗であれ、小売店から商品を購入します。幅広い小売店に流通させるネットワークをもつ卸売業者が介在することもありますが、インターネットの発達によって、メーカーが消費者へ直接販売するビジネスも増えてきています。
そして近年、消費者が使用した後の廃棄物についても、メーカーは考慮することが重要になってきています。これは、経済協力開発機構(OECD)が拡大生産者責任という、製品のライフサイクルのすべてにわたって生産者が責任をもつという概念を提唱し、それに基づいて容器包装リサイクル法や自動車リサイクル法などが次々と制定されたことで、さまざまな業界のメーカーが意識を強めています。
廃棄しても地球に害を与えない製品設計、製造の過程で排出される二酸化炭素を減らす活動など、環境への影響についてさまざまな工程において考える必要があります。
消費者を起点とした情報の流れ
拡大画像表示
メーカービジネスにおいて、ものの流れと同じく重要な流れがもう一つあります。それは、「情報」です(図0-4)。メーカーがものを作り、顧客に届けるという前ページの全工程において、情報がもとになっているからです。
そしてこの情報の流れは大きく、「商品開発」と「商品供給」という2種類に整理できます。まずは商品開発について見ていきましょう。
メーカービジネスの起点となる情報は、商品を利用する消費者からの情報です。これは消費者が発信しているものとは限りません。消費者の購買行動や、消費者の心理も該当します。メーカーは直接的・間接的にそういった情報をさまざまなしくみでセンシング(情報を取ること)し、それを商品開発に活用します。消費者にとって価値のある製品・サービスを開発しなければ売れません。また、そのニーズの規模を適切に把握できなければ、実際にどれくらいの量の製品を作ればよいか、サービス提供のための人や設備をどれくらい用意すればいいかがわかりません。
顧客のニーズを適切に把握し、それを満たす商品を設計できた後は、そのニーズの大きさを「需要予測」によって数字に変換します。この需要予測という定量的な情報をもとに、いつ何個作るか、といった「生産計画」が立案されます。このとき、すでに発売になっている商品であれば、その在庫が現時点でどれくらいあるのかも考慮しなければなりません。たくさん売れる商品であっても、今、手元に大量の在庫をもっている場合、短期的には生産する必要がないからです。この在庫の数も、メーカービジネスにとって非常に重要な情報といえるでしょう。在庫はメーカービジネスのサービスレベルとコストのバランスを調整する非常に重要な概念です。
そしてこの生産計画をもとに、必要な原材料の量が計算されます。商品ごとに構成要素となる原材料の種類や量は異なりますが、ある商品Aに使われている原材料Xが、別の商品Bに使われているということもあり、どの商品にどの原材料がどれだけ使われているかを正確に管理することが重要です。この各種原材料の必要量が、メーカーからサプライヤーへ発注されます。
商品供給につながる情報の流れ
次は、商品供給のための情報です。消費者が小売店で商品を購入すると、小売店はメーカーや卸売業者へ、商品を補充するための発注を出します。この数量情報をもとに、メーカーや卸売業者は商品の出荷を手配します。卸売業者も自社が保有する在庫を考慮し、メーカーへ商品を発注します。つまり、消費者の購買数量が発注数として、小売店から卸売業者、メーカーへ伝わっていくわけです。
メーカーは、これに在庫で応えます。しかし、その生産には時間を要するため、原材料から手配していると数ヵ月はかかる場合がほとんどです。加えて、商品の出荷にはそれを行うための人や、商品を運ぶトラックなども必要になります。これらは急には準備できないため、発注が入るより前に、その規模を想定して用意しておかなければなりません。小売店や卸売業者からの発注、もしくは消費者の購買に対し、どこまで準備しておくかも、メーカービジネスでは重要な意思決定ポイントになります。
これらはあくまでも基本的な情報の流れであり、実際にはサプライヤーから原材料生産の制約数が提示されることもありますし、メーカーの工場から同様の制約が提示されることもあります。また、小売店から特売のための大量発注が入ることもあります。必ずしも消費者を起点とした情報ばかりではありませんが、消費者を起点とした情報が商品開発と商品供給という二つの大きな流れでメーカービジネスを動かしていることは事実でしょう。