あれこれ考えるうちに、上司の側で、「まあ、どうしても辞めるというなら仕方がないか」という覚悟が決まることが多い。憂鬱な週末を過ごす上司は少々気の毒だが、2日間で心の整理が進んでいるはずだ。辞める側としては、月曜日に晴れやかな表情で「やっぱり辞めます!」と言うといい。

 なお、自分の直属の上司を飛び越えて、上司の上司、あるいは人事部などに先に退職の意思を伝えるのは、よほどの場合を除いてやめた方がいい。直属の上司の顔をつぶす行為は、多くの場合やり過ぎだし、余計だ。引き継ぎ等がスムーズにいかなくなる可能性もある。

退職をするときに
「持ち出せるもの、持ち出せないもの」

 1990年代くらいまでの、情報が紙ベースで管理されていた時代には、転職が決まっているがまだ退職の意思を告げていない社員が、遅くまで残業して名刺のファイルや顧客リストなどを密かにコピーする姿が見られることがあった。特に営業マンの場合は、名刺ファイルが「命の次に大事な飯の種」的な重要性を帯びることがあったが、外資系企業の一部では、個人の名刺ファイルであっても「それは業務上、手に入れたものなので会社の財産だ」という扱いをされることがあった。

 上司の部屋で退職の意志を告げると、その場でIDカードを没収されて自席に戻ることを許されず、荷物は会社側が整理して後日宅配便で届く、というようなギスギスした会社もある。

 近年では、顧客や取引先のリストなどは会社のデータベースに入っているだろうが、重要なデータのダウンロードは追跡できるようになっていることが多い。また、紙のコピーのような場合でも監視カメラが作動している場合もあるので、退職直前のデータ持ち出しはやらない方がいいと申し上げておく。

 仕事上必要なデータや連絡先、自分の仕事のデータや書類(自分の「作品」的な書類や研究のデータ)などは日頃から手元に持っておくべきで、退職を決めてからごそごそ持ち出すべきではない。

 また、これまでの職場で使っていて便利だったマニュアルのようなものについても、持ち出しは我慢しよう。もちろんデータ持ち出しを疑われないことが大事だからなのだが、筆者の経験では、昔の会社の書類はあまり役に立たないことが多かった。「自分の頭の中に入っていて、いつでも使える知識のみが自分の実力なのだ」と割り切って、身軽に転職する方がいい。

 もちろん、ギスギスしていないフレンドリーな職場に勤めている場合は、周囲の協力を仰いで退職の準備をするといい。辞める側も単に仕事を引き継ぐだけでなく、同僚の相談に乗るなど大いに親切にして、残った日々を惜しむといい。

 なお、退職の前にオフィスの庶務を担当している人物や、親しい後輩などに親切にしておくと、退職後に届いた郵便物等を転送してくれたり、連絡してきた人に転職後の連絡先を伝えてくれたりする場合があるので、覚えておこう。