経年変化を考慮しない
「西洋型エイジフレンドリー」

 エイジフレンドリーとは本来、「ある特定の年齢層に親和性が高い」という意味だ。したがって、「特定の年齢層」を高齢者層に限っているわけではない。

  60年代から70年代の高度成長期に全国各地に多摩ニュータウン、高島平団地、千里ニュータウンなど多数の住宅団地が建設された。これらの団地は、主に当時20代だった団塊世代の人たちの住宅需要に応えるために建設されたものだ。

  当時、最も重要視されたのは、夫婦プラス子ども数人のファミリー層で取得可能な価格だった。このため、間取りは、いわゆる「団地サイズ」の部屋で構成される2LDKが一般的だった。現代の集合住宅と比べればかなり狭いが、当時は「それが当たり前」の標準と見なされた。その時代の20代のファミリー層に対しては親和性が高く、この意味においてエイジフレンドリーだった。

  しかし、入居後40年、50年と経過し、団地の仕様が高齢化した入居者のニーズと合わなくなっている。3階以上の建物でもエレベーターがないところでは、下半身の衰えた年配者には昇降が辛い。部屋には多くの段差があり、間口が狭く、至るところにバリアがある。

  このように、時間軸のある時点で特定の年齢層に親和性が高くても、時間の経過とともに親和性が低くなる。この理由は、コミュニティの構成員である団地の入居者が加齢により身体機能など多くの面で変化するとともに、コミュニティの建物・インフラも時間の経過により経年劣化するからである。

  多摩ニュータウンのような大規模な住宅団地は、日本以外の新興国でも多く見られる。たとえば、シンガポールでは、国民の8割がHDBと呼ばれる公営の高層住宅に住んでいる。香港では狭い土地に高層・超高層住宅が林立しており、日本よりも住宅同士の間隔が狭く、密集している。

  これらの国では、高齢化率がまだ10~11%程度だが、日本以上に少子化が進んでいるため、20年後には現在の日本並みになると予測されている。これは急激な高齢化を意味する。私たちは、20年後にこれらの国の住宅団地で何が問題になるのかが容易に予想できる。

  近年、日本以外のいくつかの地域で「エイジフレンドリーなコミュニティ」という言葉が聞かれる。前述のとおり、エイジフレンドリーという言葉は、西洋発のもので、多くの場合、シニアフレンドリー(高齢者に親和性が高い)の意味合いが強い。これは、実は「時間軸のある時点で特定の年齢層=シニア層に親和性が高い」ことを意味する。