こうした講演や取材での共通の関心事は、日本の高齢化に伴う課題とその解決策について意見が聞きたい、というものだ。国際会議では、常に日本との比較、日本の話題が登場し、日本に対する高い関心を身に染みて感じている。また、特に最近はスウェーデンやデンマークのような、日本が羨んできた高福祉国から日本のシニアビジネス動向について尋ねられる機会が増えていることに驚く。

  このように世界から注目される理由は、よくも悪しくも日本が高齢社会に必要なことの「ショーケース」となっているからだ。年金などの社会保障の課題だけでなく、個人の健康や生活設計に対するニーズには「世界共通」のものが多い。だから日本をじっと見ていれば、自国の近未来の姿が見えてきて、自国で課題が顕在化する前に対策を講じることができるのだ。

  ところが、この世界一の超高齢社会・日本ですら「人口動態のシニアシフト」に対して、「企業活動のシニアシフト」は一部の企業と業種を除いて遅れ気味だった。本連載の第一回で述べたように、いま、ようやくそれが本格的になってきたところなのだ。とはいえ、世界中を見渡して、これほどまでに「企業活動のシニアシフト」が活発になっている国は日本以外にはまだ見当たらない。

シニアビジネスで
日本は世界のリーダーになれる

 私は、高齢社会対策、特にシニアビジネスの面で、日本は世界のリーダーになれると真面目に考えている。その理由は、日本で揉まれたシニアビジネスが世界で通用するからである。そのポイントは2つある。

  第1に、前述のとおり、日本では高齢化の課題が世界のどこよりも早く顕在化する。これは裏返せば、シニア分野でのビジネスチャンスが世界のどこよりも早く顕在化することを意味する。だから、常に世界に先駆けて商品化でき、いち早く市場に投入できる優位性がある。

  第2に、連載第2回で述べたとおり、シニア市場とは多様な価値観を持った人たちが形成する「多様なミクロ市場の集合体」であること。この「多様性市場」には、きめ細かな対応力が求められるが、日本の高度な集積化技術と、日本人の細やかな情緒感覚がこの対応力の源泉となる。日本は、シニアビジネス分野で他国に対して優位に立てる素地を十分に持っているのだ。