工業高校卒から、30歳で年収1000万円のコンサルタントに――。『転職が僕らを助けてくれる――新卒で入れなかったあの会社に入社する方法』の著者・山下良輔さんは、少ない元手から転職によってキャリアを花咲かせた、いわば「転職のわらしべ長者」だ。
ロングインタビュー、第2回のテーマは「転職のタイミング」。「石の上にも三年」「ファーストキャリアは大企業」……。キャリアについて語るとき、いつも「転職七不思議」ともいうべきまことしやかな噂がつぶやかれる。そのうちの一つが、「繰り返される転職歴がネガティブに働く」というもの。どんなタイミングで転職をすればいいのか、その正解を知っている人は少ない。山下さんに、アドバイスを聞いた。(取材・構成/オバラミツフミ、写真/木村文平)
「石の上にも3年」には根拠がない
――「石の上にも3年」という言葉があるように、働く上でも「一度勤めたら3年以上は働いた方がいい」という声を聞くことがあります。山下さんは、どう思いますか?
山下良輔(以下、山下):実際のところ、転職の相談に乗っていると、「まずは3年勤めてから転職しようと思っています」と言われることがよくあります。でも、僕からしてみれば、「3年」と言う数字には特に意味がないと思います。
活躍する人はどこにいても活躍できるので、それほど時期にはこだわらなくてもいいと思います。また、「どこにいっても活躍できない人」もいないというのが僕の考えです。人間には向き不向きがあるので、合わないと思ったり、他にいきたい会社があったりするのなら、チャレンジすればいい。
とはいえ、「意味のない転職」を繰り返すことはお勧めしません。会社を「転職のための実績づくりの場」だと考えたとき、たった1年程度では身に付くものも身に付かないので。
――山下さんは、どんな風に転職のタイミングを見極めていましたか?
山下:タイミングは僕らが勝手に決められるものではありません。むしろ「企業の側のタイミング」に合わせることが、転職を成功に導くコツです(超エリートを除けば、ですが)。
これは、僕が「転職のタイミング」の考え方を図にしたものです。自分が行きたいざっくりの業界や会社群を決めたら、それらの会社の「採用条件が緩くなる大量採用のタイミング」を見極める。僕はこのやり方で、スバル、PwCコンサルティング、デロイト トーマツコンサルティング、その他の外資系コンサルティング・ファームやITメガベンチャーに内定をもらいました。
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僕が最初に転職したスバルは、まさに大量採用の時期でした。当時、スバルは業績が急速に伸びていて、とにかく人手が必要な時期だったんです。もちろん仕事は頑張っていましたが、タイミングの助けもあって転職に成功したと考えています。
デロイトに転職できたのも、コンサルティング業界での採用ニーズが高まっていたことが関係しています。需要の高まりによって採用要件が緩和され、多くの人に門戸が開かれ始めていたんです。
――それは知りませんでした。タイミングを見計らえば、応募の要件(学歴など)をクリアしていなくても、採用されることがあるんですね。
山下:もちろん準備はすべきですが、応募時期をむやみやたらに先送りにするメリットはないと思います。気が付いた頃には、「採用市場が冷え切っている」なんてこともありますから。
具体的には
・定期採用するタイミング(外資系の場合は年中無休)
・売上拡大で採用を増やすタイミング
・資金調達後で採用を増やすタイミング
を狙うのがいいと思います。
30代が直面する「不幸な転職」
――なるほど、自分はいつでも準備しておいて、企業のタイミングに合わせて飛び込むんですね。一方で市場価値を下げないために、転職に最適なタイミングはありますか?
山下:20代のうちに、一度は転職をした方がいいと思っています。
やがて大手企業になるベンチャー企業は、大手企業の経験がある人材を探しています。でも、たとえば10年以上大手企業で働いていたような人材は、採用候補者から外れてしまうからです。
22歳で就職したとしたら、10年後は32歳。ベンチャー企業だと、マネジメントを担当する年齢です。ただ、大企業の場合、課長職になるのは40歳を超えてからの場合が多い。すると、スキルと年収がマッチしなくなるんです。
大手企業とベンチャー企業、双方の経験があると、市場価値は高くなりやすい傾向があります。大手企業に入ってその権利を得たとしても、長く在籍したばっかりに、みすみすチャンスを逃してしまう可能性があるんです。
――以前は転職歴が多いとネガティブでしたが、今は一社に長くい続けることがネガティブ要素にもなるんですね。
山下:「ここで経験を積めば、市場価値が高くなるだろう」と、根拠のない理由を掲げてむやみやたらに在籍年数を伸ばしても、むしろマイナスになることもあります。
「今まで何をしてたの?」とならないように、早い段階で転職をする選択肢を頭に入れるべきだと思います。「なんのためにここにいるのか」をよくよく考えてみてください。
――よくよく考えて、転職しないほうがいい場合もありますか。
山下:もちろん価値観はそれぞれですが、成果だけを考えたとき、転職しないほうがいい人のパターンは2つですね。
①今の会社でやりたいことができていて、年収にはこだわらないパターン
②今の会社でスキルや実績を積んだほうが、次の転職に明らかに有利になるパターン
です。
ただし、②については本当に「今の会社で」やるべきなのかはよくよく考えた方がいいですね。特に業界を変えたりジョブチェンジをしたい場合、別の業界に行って年収を上げつつ、経験を積んだ方がいい場合もあります。
リファラル採用は狙うな
――『転職が僕らを助けてくれる』は、僕らのようなエリートではない”普通の人”の視点で書かれているのが目からウロコでした。“普通の人”視点で見たとき、「転職はタイミングが大事」以外にも注意すべきことはありますか?
山下:IT系のベンチャー界隈では、自社の従業員に採用候補者を紹介してもらう「リファラル採用」が活発になりつつあります。「優秀な人の周りには、優秀な人がいる」という理由で、エージェントなどを介さず、社員づてに人材を採用する手法です。
もしかすると、転職系の書籍で見たことがある人もいるかもしれません。ただ、僕はこれを狙うことはお勧めしません。なぜなら、限られたごく一部の「本当に優秀な人たち」のための転職手段だからです。
リファラル採用を利用して転職するとなると、やはり人間関係が大切です。自分の存在を認知してもらわないと、声がかかることはないので。つまり、会社の外に出て、いわゆる“第三のコミュニティ”をつくることが重要になります。
でも、順番を間違えてはいけません。“第三のコミュニティ”をつくって人間関係を広めても、仕事ができないのであれば、声がかかることはないからです。
リファラルを推奨する転職マニュアルの多くは、積極的に外に出ていくことをお勧めしています。でも、それは「会社で十分に成果を上げていて、なおかつ違う会社でも同じように成果を上げられる人」に向けての話です。
それを理解せずに人間関係づくりにばかり時間を使っていても、そもそも本業で成果を出す努力をしていないので、誰にも認められることはありません。転職に失敗するとか、そういうこと以前に、「あなたは何ができるの?」で話が終わってしまいます。
――社外の人脈づくりの代わりに、やっておいた方がいいことはありますか。
山下:僕がお勧めするのは、「社内のキーパーソン」と仲良くなることですね。第1回の記事で述べたとおり、転職の実績になるのは、「他の人がやらない仕事」です。そういう仕事を応援してくれる、社内の味方を見つけておくと、会社員として働くうえでとても楽になると思います。
★連載第1回はこちら 「仕事は地味でも転職で成功する人」と「社内では優秀なのに市場価値が低い人」の差
Exception株式会社代表取締役。
1989年、愛知県生まれ。名古屋工業高等学校卒業後、2008年に株式会社松田電機工業所(自動車部品メーカー)に入社。愛知県の工場で生産技術エンジニアとして働く。入社5年目の22歳で、海外(タイ)工場─立ち上げのプロジェクトに参加。1年半にわたる海外駐在を経験。2014年、株式会社SUBARUに転職。先行開発に携わる傍ら、自ら他社に声がけして「共同研修プログラム」を立ち上げ。2016~2018年、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)に働きながら通い、修了。「プロジェクト単位の仕事がしたい」とコンサルティング・ファームへの転職を決意。2018年~PwCコンサルティング合同会社、2019年~デロイトトーマツ コンサルティング合同会社にて、コンサルタントとして勤務。大手メーカーへの業務効率化の支援などを行う。2021年8月に独立。現在はException株式会社の代表として、企業の組織設計、採用支援、キャリア開発などを行う。Twitterでも転職・キャリアについての情報発信を積極的に行っており、20代、30代から支持を得ている。Twitterには年間100件以上の転職・キャリアの相談があり、相談者から「異業種に転職できた」「交渉した結果、年収が200万円アップした」「高卒でも、20代で年収1000万円を超えた」など、多くの喜びの声が寄せられている。自身の転職ノウハウをまとめた初の著書『転職が僕らを助けてくれる』を発売。
Twitter @RyosukeYamashit
Photo: Motoko Endo