「仕事は地味でも転職で成功する人」と「社内では優秀なのに市場価値が低い人」の差

工業高校卒から、30歳で年収1000万円のコンサルタントに――。『転職が僕らを助けてくれる――新卒で入れなかったあの会社に入社する方法』の著者・山下良輔さんは、少ない元手から転職によってキャリアを花咲かせた、いわば「転職のわらしべ長者」だ。
「運が良かったんだね」「もともと頭が良かったんでしょ?」という声をかけられる機会も少なくないそうだが、彼の答えは「NO」だ。著書では、自身の経験を「再現性のあるマニュアル」にして公開。Twitterの相談者からも「20代で年収1000万円オーバー」「異業種転職で年収200万円アップ」などキャリアアップに成功する人が続出している。
初のロングインタビュー、第1回のテーマは「市場価値」。巷のマニュアルに書いてある「どの会社でも通用する実績をつけろ!」といったエリートの戦略に惑わされるな、と山下さんは語る。では、具体的には何をしたらいいのか。話を聞いた。(取材・構成/オバラミツフミ、写真/木村文平)

誰もいない海で鯛を釣れ

――『転職が僕らを助けてくれる――新卒で入れなかったあの会社に入社する方法』で特に面白いなと思ったのが、転職の「実績づくり」の項目です。「他の人がやらない仕事」をやれ、というお話がありました。いったいなぜでしょうか?

山下良輔(以下、山下):横並びの競争は、とにかくコストパフォーマンスが悪いからです。

 普通に頑張っただけで、なんでも1位を獲得できてしまう人は、そのままでいいと思います。むしろ、今の会社を辞めないほうがいい。でも、僕のように、今まで1位を獲得できなかった人間が、急に同期を追い抜いてナンバーワンになるなんて、現実的ではありません。

 そもそもですが、「仕事ができる人=転職がうまくいく人」という固定観念を捨てた方がいいと僕は思います。

――そうなんですか! でも、「全社売り上げナンバーワン」や「年間MVP」といった、目に見える成績があった方が、キャリアアップには有効な気がします。

山下:もちろん、その会社で出世をしていくなら、それでいいと思います。でも、転職市場で「年間MVP」という成績が評価されるかといえば、微妙なところです。

 SNSを眺めていると、プロフィールに「MVP」と書いている人が何人もいます。つまり、それだけありふれている。希少性はないということです。会社の数だけMVPがいるし、四半期ごとにMVPを選出していたりする場合もあるので、特に珍しい肩書きではありません。

 実際、現在僕は会社の経営者として企業の採用支援をしていますが、採用側の視点で「MVPだから採用したい」と思ったことはありません。売り上げを伸ばす方法を熟知していて、それに再現性があるなら興味がありますが、そうでなければMVPの受賞歴にさほど意味はないと思います。きっと、エージェント目線でも同じです。

 大変な思いをして会社内の評価を上げても、市場価値が上がるとは限らない。すごくコストパフォーマンスが悪いと思います。

 僕が言いたいのは、大勢の人がいる釣り堀で魚を釣るのか、誰もいない海で鯛を釣るのか。その違いです。

 前者はみんなが一度に同じ魚を釣ろうとしているので、僕はわざわざ行きたいとは思いません。これまでの経験からして、そこまで魚を釣るのが上手くないと分かっていますから。

 でも、多くの人は、実際のところ「魚を釣るのが上手くない人」ですよね。そうであれば、戦い方を変えることが、市場価値を高める最短の道になるのではないかと思います。

市場価値を高める最短の道は「地味な仕事」

――では、転職につながる実績とは、どのようなものなのでしょうか。

山下:「他の人がやらない仕事」をすることです。それができているのであれば、「全社売り上げナンバーワン」や「年間MVP」といった、華やかで目立つタイトルを持っている必要はありません。

――他の人が誰もやらない仕事ですか。少しハードルが高い感じがしてしまいます。

 僕が今回の本で定義した「他の人がやらない」とは、「誰も成し遂げられない」という意味ではありません。狙い目なのが、「会社の儲けに直結するのに、地味で、社内での評価につながりにくい仕事」です。地味なので、誰もやらないまま放置されているようなことが、どの会社にもあります。それに手をつけるのです。

 僕の話をすると、新卒入社した松田電機で実践した仕事の一つに、「書類フォーマットの修正」がありました。

 新しく製品を開発するとき、毎回製品の製造工程をチェックする書類を作成するのですが、その書類のフォーマットが分かりづらいまま放置されていたので、誰でも間違いのない手順で作業・記入ができるように変更したんです。

「全社売り上げナンバーワン」みたいな派手さはなく、大したことない仕事に聞こえるかもしれませんが、転職市場では評価されました。「自分で課題を設定して、課題の解決に取り組み、会社の成長に貢献できる人材だ」と一目で分かるからです。

個人の利益が出せているか、プロセスが語れるか

――社内では評価されないことでも転職市場では評価される可能性があるんですね。

山下:はい。社内の評価は、どうしてもその会社個別の人事評価システム、上司の好き嫌いなどに影響されます。「いくら利益を出しても、今の会社では評価されない」ということも、残念ながらある。一方で、転職市場で評価されるためにはポイントがあります。

・「個人の利益」を稼げているか
・「プロセス」を語れるか

 の2つです。

 まず、どんな仕事をするときも「自分はこの仕事でいくら利益を稼げているか」を意識してみてください。個人の利益を出すことは、営業のような部署ではなくても可能です。売り上げを10%上げるのと、コストを10%下げるのは、実質的に同じことですから。

 一方で、どんなに「他の人がやっていない仕事」でも、会社の利益になっていない仕事は転職市場でも全く評価されません。この点を勘違いして「今の会社では認められないけど、誰もやっていないことをしてるんだ!」と変な勘違いをしてしまう人がいるので、気をつけたほうがいいですね。

――2つ目の「プロセスを語る」とは?

 指示された仕事に邁進して1位を取った人よりも、「自分なりの工夫」をして成果を上げた人こそが、転職市場では評価されるんです。

 僕の例で言えば、完成した「書類のフォーマット」自体が評価されるのではなく、「書類のフォーマットが不完全だから、こうしたらもっとミスが減るのでは」と問題意識を持って仕事に臨んでいることが大事なんです。普段仕事をするとき、この意識を持っているかどうかが、その後の書類選考や面接に大きく生きてきます。

★連載第2回 「石の上にも3年」を信じてずっと転職しない30代の末路

「仕事は地味でも転職で成功する人」と「社内では優秀なのに市場価値が低い人」の差山下良輔(やました・りょうすけ)
Exception株式会社代表取締役。
1989年、愛知県生まれ。名古屋工業高等学校卒業後、2008年に株式会社松田電機工業所(自動車部品メーカー)に入社。愛知県の工場で生産技術エンジニアとして働く。入社5年目の22歳で、海外(タイ)工場─立ち上げのプロジェクトに参加。1年半にわたる海外駐在を経験。2014年、株式会社SUBARUに転職。先行開発に携わる傍ら、自ら他社に声がけして「共同研修プログラム」を立ち上げ。2016~2018年、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)に働きながら通い、修了。「プロジェクト単位の仕事がしたい」とコンサルティング・ファームへの転職を決意。2018年~PwCコンサルティング合同会社、2019年~デロイトトーマツ コンサルティング合同会社にて、コンサルタントとして勤務。大手メーカーへの業務効率化の支援などを行う。2021年8月に独立。現在はException株式会社の代表として、企業の組織設計、採用支援、キャリア開発などを行う。Twitterでも転職・キャリアについての情報発信を積極的に行っており、20代、30代から支持を得ている。Twitterには年間100件以上の転職・キャリアの相談があり、相談者から「異業種に転職できた」「交渉した結果、年収が200万円アップした」「高卒でも、20代で年収1000万円を超えた」など、多くの喜びの声が寄せられている。自身の転職ノウハウをまとめた初の著書『転職が僕らを助けてくれる』を発売。
Twitter @RyosukeYamashit
Photo: Motoko Endo
「仕事は地味でも転職で成功する人」と「社内では優秀なのに市場価値が低い人」の差