ビジネスの「勘所」は、
リアルな職場でしか学べない

 もちろん、ビジネスマナーだけではありません。

 もっと高度なことも、私たちは職場で自然と学んできました。

 仕事の進め方もそうです。例えば、管理職に頼まれた仕事を、どのように隣の先輩が処理しているかを横目に見ているだけでも、なんとなく仕事の流れのようなものがわかってきます。

 しかも、管理職とその先輩のコミュニケーションも聞こえてきますから、どこが仕事の「勘所」なのかもわかってきます。例えば、管理職に仕事を頼まれた翌日に、その先輩が「こんな感じで進めてますが、よろしいですか?」などと確認に行ったときに、「お、早いね」と管理職が嬉しそうな声を出せば、「なるほど、途中経過は早めに報告しておくといいんだな」と理解できるわけです。

 あるいは、その先輩が途中経過を見せにいったときに、管理職が提出された資料を見ながら、「うーん、この要素だけで、(役員の)Aさんは納得するかな? あの人は数字に厳しいからなぁ……。◯○の数字を書いたほうがよくない?」などと投げかけるのを聞くことによって、「社内でGOサインを取るためには、いろいろな人の視点に立って考えなければならない」「A役員は数字に厳しい」などということを把握することができます。

 リアルな職場で働くことによって、こうしたコミュニケーションのシャワーを浴び続けるわけですから、そこから数え切れないほどの「学び」を汲み取ることができるわけです。

 この蓄積は、非常に大きいものがあります。

 管理職が一対一でメンバーと向き合いながら、言葉で説明するだけでは到底追いつけないほどの情報が職場では飛び交っていて、そこから、メンバーは実に多くの「学び」を得ているのです。

 だから、管理職は、リモート環境下において、こうした「学び」がすっぽり抜け落ちてしまうことの重大性を十分に認識しておく必要があると思います。そして、それを少しでもカバーする対策を真剣に考えなければならないのです。

「後継者」を育てて、
新人育成を任せる

 では、どうすればいいのでしょうか?

 まず第一に考えられるのは、リモートワークとリアルワークを併用することです。職場の「教育機能」を発揮させるには、リアルな職場でみんなが仕事をすることに勝る方法はないからです。しかも、できるだけ全員が出社して仕事をする機会を確保できるように工夫するとよいでしょう。

 それができない場合には、週に1~2日、2~3時間程度、Web会議アプリを繋ぎっぱなしにすることで、リモートワークをしながらも、リアルワークと似た状態を作り出すこともできます。とにかく、他のメンバー同士のコミュニケーションに触れる機会を提供することが重要なのです。

 あるいは、入社間もないような新人がいるときには、管理職とそのメンバーは基本的に出社するようにしたほうがいいでしょう。

 新人は右も左もわからない状態ですから、細かく教えてあげる必要がありますし、わからないことがあったら、なんでも気軽に質問できる環境を用意してあげるべきだからです。また、バラバラに出社してくる他のメンバーと管理職のコミュニケーションを、真横で聞かせることで「学び」を得てもらうこともできるでしょう。

 ただし、これでは管理職が職場に縛り付けられることになってしまいます。

 それを避けるためには、自分の後継者を育てておくしかありません。そして、その後継者を「教育係」として、新人と一緒に出社してもらうようにするのです。

 実際、私がソフトバンクで複数の部署をリモート・マネジメントしていたときには、後継者がいる部署にはあまり顔を出さず、彼・彼女らに新人教育を含めた現場マネジメントを任せていました。そして、後継者がいない部署になるべく顔を出すようにして、そこで後継者育成に励んだわけです。

 管理職が重視すべきなのは「後継者」の育成です。

 もちろん、駆け出しの管理職のときは、新人育成の経験を積むことが大事ですが、いつまでも管理職がそれをやっていては、後継者が育ちません。新人育成は後継者として成長してもらううえで、非常に重要な経験です。管理職は、一歩引いて、後継者をサポートする立ち位置に立つことが求められているのです(詳しくは『課長2.0』をご参照ください)。