安全確保のテレワークから成果を上げるテレワークへ

 新型コロナウイルス感染症の拡大による、2020年4月の緊急事態宣言発令で、企業は従業員の在宅勤務(テレワーク)を実施し、通勤電車からスーツ姿のビジネスパーソンがにわかに減った。最初のうちは、テレワークのできない派遣スタッフが出社通勤を余儀なくされるケースも見受けられたものの、正規雇用社員同様の措置を即座に取っていく企業が多かったようだ。コロナ禍で、「派遣」の働き方も大きく変化した。

阪本 派遣スタッフがこれほどリモートで働ける状況になるとは想像しませんでした。コロナ前は派遣スタッフの指揮命令者も職場に通勤して働くのが当たり前でしたので、派遣スタッフのテレワークはほとんど想定されていませんでした。最初の緊急事態宣言が出た頃は、派遣先企業のご協力のうえ、雇用を守るためにテレワークを実施いただいたケースもありましたが、その段階を過ぎ、現在は事務職やエンジニアを中心とした派遣スタッフがテレワークを行う状況が多くなっています。これは大きな変化です。もちろん、テレワークは職種によって合う・合わないがあり、テレワークが難しい職種や職場で働く派遣スタッフもたくさんいらっしゃいますが、テレワークは働き方の選択肢のひとつとして当たり前となり、社会全体で働き方が多様化しています。

 SSHDが、20~60代の男女に対して行った「テレワーク」についての意識調査(*4)では、テレワーク賛成派が全体の76.3%におよび、20代30代の若年層での賛成傾向がより高くなっている。しかし、2021年10月の緊急事態宣言解除以降は、テレワークを止めてオフィス勤務に戻す企業もあり、働き方の多様化は事業規模や職種によって温度差があるようにも見える。

*4 【新しい働き方の選択肢に関する意識調査 第3弾】 調査方法:インターネット調査、調査期間:2021年6月2日~6月7日、調査対象:全国20歳~69歳の男女1100人

阪本 私自身もそうでしたが、最初の緊急事態宣言発令時は、まず、経営者は従業員の安全を守ることが第一で、公共交通機関を使ってオフィスに出勤するリスクを減らす必要がありました。従業員の「安全確保」がテレワークのスタート地点だったのです。そして、これから大切なのは、「成果型」のテレワークだと私は思っています。言うまでもなく、仕事には何らかの成果が必要です。たとえば、当社は、一人でも多くの就業を創ることを目的にした事業体であり、その成果で社会に存在を認めていただいています。成果を実現するためにテレワークとオフィスワークをうまく組み合わせパフォーマンスの最大化を考えています。オフィス内のほうが適している仕事もあるし、自宅で働いたほうが生産性の上がる仕事もある。コロナから2年がたち、会社組織や個人個人が、どうしたら成果をいちばん上げられるか――テレワークと通勤を掛け合わせて考える時期になりました。企業ごとに差異はありますが、コロナによって働き方が劇的に変わったのではなく、働き方の幅が広がったのです。

雇用の「不」を解決し、企業と一人ひとりの仕事をつないでいくために…

 阪本社長は欧州での就労経験があり、また、リクルートグループの米国派遣子会社においてCOO等を務めた実体験から、“海外の就労スタイル”についての知見を多く持っている。

阪本 たとえば、欧米では、「未経験での派遣」というものはありません。企業の採用対象にも、未経験者はいません。ですから、新卒採用も日本とは考え方が大きく異なります。では、どうするかというと、学生は学生時代にインターンシップで就業経験を積むのです。私が勤務していた米国の派遣会社では、倉庫作業のお仕事も派遣の対象にしていましたが、同じような環境で経験のある人だけを企業は受け入れていました。「未経験でも職場に行けば何とかできるだろう」「忍耐力さえあれば誰にでもできるはず」ということはなく、経験がなければ、海外の派遣会社は人材登録さえ受け付けません。日本とは明らかに違います。

 このところ、欧米企業の「ジョブ型雇用」が日本でも注目を集め、雇用方法のひとつとして導入する企業が増えている。「ジョブ型雇用」と対比される「メンバーシップ型雇用」は、未経験者である新卒を一括採用するような“日本企業のスタンダード型”だが、阪本社長は双方をどう見ているのだろう。

阪本 「ジョブ型」は、「企業が、その人のできることを受け入れるもの」で、「メンバーシップ型」は、「その人ができなくても、育てることを前提に受け入れるもの」と考えられるでしょう。どちらが良い・悪いではありませんが、ジョブ型のアメリカでは、社会全体の失業率が4~5%に対し(*5)、若者の失業率は約9%(*6)という数字もあります。日本は、世代によってそれほどの開きはありません。最近は、「メンバーシップ型」の悪い点ばかりが強調されがちですが、メンバーシップ型の新卒採用や未経験者を育成する日本企業の姿勢を、私は肯定的に見ています。

*5 「米国10月の非農業部門雇用者数は53.1万人増、失業率は4.6%に低下」など(独立行政法人日本貿易振興機構ニュースより)
*6 国際比較統計:完全失業率|新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響(新型コロナウイルス感染症関連情報)|労働政策研究・研修機構(JILPT)より