“属性”ではなく、“個の能力”への注目が大切

「仕事」には、労働の対価として報酬(賃金)が発生する。雇用する側は「お金」を費やし、雇用される側は「時間」を費やすために、労使関係でお互いが慎重になるのは当然の理だ。そうしたなか、未経験者のトレーニングや就労者の階層別・職種別に行われる「研修」にも阪本社長は価値を見出している。

阪本 研修制度は企業にとって重要な財産だと思います。研修があるから、多様な人材に働くチャンスが生まれ、ダイバーシティ&インクルージョンの実現も可能になります。未経験者の就労は人手不足解消の糸口にもなるのです。ただ、すべての企業が、人材育成を前提に人を採用し育成する余力があるわけではありません。先ほどのメンバーシップ型の話のとおり、日本の場合は、正社員を長期間雇用していくのが一般的で、働く側にも長期的に働く覚悟が必要になります。そこで、「派遣」という働き方で、まずは経験を積んでみる方法が考えられます。求職者の「この企業の社風に自分は合わないかもしれない」「この仕事はうまくできないかもしれない」という不安解消のためにも「試す」ことは大切です。これまでの社会では、いつでもどこでもフルタイムで働ける人材が労働層の中心でしたが、今後、そうした人材が減っていくので、企業は未経験者に向き合うことがいっそう重要になるはずです。

 スタッフサービスグループで技術者・ITエンジニアの人材総合サービスを展開するスタッフサービス・エンジニアリング(SSE)では、エンジニアを自社の社員として雇用したうえで派遣先となる企業に派遣スタッフとして送り出している。注目すべきは、エンジニア希望の未経験者のスキルアップをSSEが支援し、未経験や経験の浅い者が採用者(SSEの社員になる者)の約7割を占めている点だ。

阪本 業種に限らず、「研修したうえで、スタッフを派遣してほしい」という派遣先企業の希望があります。私たち派遣会社に、“派遣スタッフのスキル装着”を期待していらっしゃるのです。スタッフサービス・エンジニアリングはそうしたニーズに応えるため、エンジニアになりたいという意欲のある未経験層を採用し、育成し、就業する機会を提供していることが特徴です。育成には派遣先企業にも協力いただき、OJTをベースとしながら当社とともにエンジニアを育成しており、それを「顧客協働型育成モデル」と呼んでいます。文系出身の方や販売サービス職でキャリアを積まれたエンジニアもいて、異業種や異職種で培ったスキルや経験が強みになる場合も多くあります。

 経験の有無といった個人のキャリアの違いも、組織におけるダイバーシティ(多様性)のひとつだ。そして、「経験がないから」「シニアだから」といったアンコンシャスバイアスが企業の成長を阻むこともある。企業と個人の間に立つ人材総合サービス業の視点から、阪本社長は、“属性”ではなく、“個の能力”の尊重が大切だと説く。

阪本 多分、20年前30年前の60歳の方と現在の60歳の方は全然違いますよね。スポーツ庁の調査では、昔と現在(いま)の同年齢の人たちの運動能力を測定したら、明らかに現在(いま)の人のほうが体力的に若かったそうです。個人差がありますから、年齢という「属性」で括るのはナンセンスでしょう。雇用を考えるときに、「属性」ばかりを尺度にして「個」を切り捨てるのはあまりにももったいないです。