三菱商事の洋上風力、政府の救済案が招く「市場そのものが消滅」するリスク!バブル崩壊で“黒船”の撤退加速もPhoto:Diamond

「脱炭素の切り札」として日本が推し進めてきた洋上風力発電が、今まさに制度崩壊の危機に瀕している。発端は、政府公募のコンペ第1弾で計3プロジェクトを価格破壊で「総取り」した三菱商事の計画見直し。インフレなどを背景に計画の採算性が覆されたのだ。三菱商事の“救済”に向け政府はルール変更の検討を進めているが、「後出し」のルール改定は洋上風力ビジネスを根底から崩しかねない。さらに、かつてはバブルの様相すら呈していた日本の洋上風力市場を消滅させかねない深刻な問題も表面化してきている。連載『エネルギー動乱』の本稿で、ルール変更が抱える問題点や制度矛盾などを明らかにしていく。(エネルギージャーナリスト 宗 敦司)

第1弾の勝者の三菱商事を優遇する
“後出し”ルール変更が招く市場崩壊

 2021年に実施された国内初となる政府公募の洋上風力発電のコンペ第1弾、いわゆる「ラウンド1(R1)」では、三菱商事グループが秋田県沖2カ所、千葉県銚子沖1カ所の計1.7ギガワット(GW)を総取りした。しかも、3海域の売電価格は1キロワット時(kWh)当たり11.99~16.49円という、当時としては驚異的な低水準で、洋上風力業界は騒然となった。

 当時でも「この価格水準で洋上風力発電を成功させることは難しい」と、産業育成の観点からの懸念が出た一方で、再エネ価格の低下を歓迎する向きもあった。本当にこの価格で事業が実現できれば、それは日本の脱炭素化に大きな貢献を果たしたはずだ。

 だが、その後に発生したウクライナ危機などを契機とした資材インフレと、円安の継続で、この3海域のプロジェクト採算性は根底から覆された。三菱商事は2月、3海域で計画中の洋上風力発電事業で、24年4~12月期に522億円の減損損失を計上。中西勝也社長は事業をゼロから見直す考えを表明した。

 事業見直しに追い込まれた三菱商事の“救済”に乗り出したのが政府である。具体的な救済策が固定価格買い取り(FIT)制度から、市場連動型のFIP(フィード・イン・プレミアム)制度への転換だ。FIT制度とは、再生可能エネルギーで発電した電力について、大手電力会社が固定価格で20年間買い取ることを政府が約束する制度だ。政府がいわば補助金のような形でサポートし、事業の予見可能性を高める狙いがある。ただ、事業者は特例を活用しない限り、自ら売電先を選ぶことはできない。

 一方、FIP制度では、発電事業者は再エネで発電した電力について、自らリスクを取って発電量と需要を調整しながら、日本卸電力取引所(JEPX)や相対取引を活用することによって、自ら売電先を選べる。政府公募のコンペでは、R1がFIT制度で、R2とR3はFIP制度の下で入札が実施された。R2とR3の案件は、いずれも補助金を受け取らない「ゼロプレミアム」で落札され、発電事業者は需要家企業との個別の再エネ売電契約(コーポレートPPA)からの収入に大きく依存することになる。

 ただし、FITからFIPへの転換には問題が存在する。その問題は日本の洋上風力ビジネスを根底から覆す恐れがある。それだけではない。日本の洋上風力が産業として成立せず、消滅に追い込みかねない深刻な問題も表面化してきている。次ページで明らかにしていく。