雇用の「不」を解決し、企業と一人ひとりの仕事をつないでいくために…

少子高齢化による労働力人口の減少、働き方改革によるワークライフバランスの推進、コロナ禍とVUCAの時代がもたらす若年層・就活生・求職者の就労観の変化……いま、日本の労働市場が大きな転換期を迎えている。企業が社会の中で存在する意味、さまざまな人がそれぞれの働き方を選択する価値を考えるうえで、企業と求職者を結びつける派遣会社の動向は見逃せない。設立40周年を迎えた、派遣業界大手の株式会社スタッフサービス・ホールディングス――その代表取締役社長・阪本耕治氏のスペシャルインタビューを「HRオンライン」がお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

何のために、何を目指して事業を行っているのか?

 リクルートグループで人材総合サービスを展開する株式会社スタッフサービス・ホールディングス(*1 以下、SSHD)は2021年に創業40周年を迎えた。1997年に放送されたテレビCM「○○に恵まれなかったらオー人事」から四半世紀。後発ながらも、同社は人材派遣業界大手として躍進し、労働市場を牽引している。そして、2021年4月に経営理念を刷新(ビジョン・ミッション・バリューズを新たに制定)――まずは、「刷新」に至る経緯を阪本社長に聞いた。

スタッフサービスグループ経営理念 チャンスを。
Vision いつからでも、どこにいても、誰もがより良い「働く」に出会える社会へ
Mission 人の可能性を信じ、一人ひとりの働こうという想いと、働く機会を最も多くつなぎ続ける
Values 「挑戦」「進化」「自ら」「スピード」「誠実」「ひとつひとつ」「やりぬく」「切磋琢磨」

*1 株式会社スタッフサービス・ホールディングス、所在地:東京都千代田区、グループ従業員数:4374人(2021年4月現在)、有効登録者数:約120万人(2021年3月現在)、就業者数:7万9847人(2021年3月現在)

阪本 現在の社会情勢や当社の変遷、そして、40周年といったタイミングが重なって、今回、経営理念「チャンスを。」にビジョン・ミッション・バリューズを加えて刷新しました。派遣ビジネスを40年間続けさせていただいたことを謙虚に振り返り、今後10年、さらにそれ以上の時間、みなさまのお役に立てる企業であり続けるために、経営理念を見直し、考えました。「変えること」が前提ではなく、「見直し、考えたうえで、何も変えませんでした」もあり得ましたが、結果、良いかたちになったと思います。

 かつて、2008年のリーマンショック後に、非正規社員のなかで契約が更新されない労働者が数多く発生し、私たちの事業も打撃を受け、私たちはこれからどこを目指すのだろう?という戸惑いがありました。そうした社外環境もあって、これまでの経営理念は、「自分たちはどのような存在になればいいのか、何を目指せばいいのか」と、やや内向きの目線でした。しかし、この10年あまりで私たちも成長していき、一定の事業規模で多くの方の就業支援ができるようになりました。また、昨今の社会では、「企業は何のために存在するのか?」という問いが表立つようになり、「企業が社会に貢献する存在であることは、長期的な成長を続けるために欠かせない」と言われています。 “企業と一人ひとりの仕事をつなぐ”という当社のコアな部分は変わりませんが、「何のために、何を目指して事業を行っているのか?」ということを私たちみんなで合意したほうが従業員の仕事のモチベーションも高まりますし、社外の方々からも期待していただけます。期待していただければ、企業は存続できますので、ビジョン・ミッション・バリューズを発信する重要な時期だと判断しました。

「ハケンの品格」(*2)という、スペシャリストな派遣スタッフを描くテレビドラマ(マンガ原作)もあるが、「派遣」は「正社員になれない人の働き方」といったイメージもあり、特にリーマンショック後に起きた「派遣切り」(主に、製造業で働く派遣スタッフの契約中途解除)の社会問題化は、派遣会社のブランドを地に落とした。「年越し派遣村(*3)」から13年――干支が一回りし、時の流れとともに、雇用者と被雇用者の「派遣」のイメージは変わってきているのだろうか。

*2 テレビドラマ「ハケンの品格」(日本テレビ系)は、第1シリーズが2007年1月~3月、第2シリーズが2020年6月~8月に放送された。
*3 2008年12月31日から2009年1月5日まで、東京の日比谷公園内において、リーマンショックの影響などで職と住居をなくした失業者のために設置された宿泊所。

阪本 「派遣」の持つイメージは世の中全体で大きくは変わっていない気がします。ただ、「派遣村」の話などを知らない若者が多くなりました。当社の採用試験を受けていただけるような、人材サービス業に関心がある学生さんでも認知度の低い状況です。ですから、若年層の方々は「派遣」を就労手段のひとつとして、ニュートラルに捉えていただいているのではないでしょうか。一方で、40代・50代の方は、「派遣切り」や「年越し派遣村」のイメージから雇用の調整弁であり不安定という印象を持たれている傾向が見られます。しかし、現在ではそうした派遣の位置づけよりも、多様なスキルや属性の人材を活用する手段として認知されつつあります。

 新型コロナウイルスの感染状況がいったん落ち着いた一昨年(2020年)秋頃から企業の派遣スタッフのニーズは上昇傾向が続いています。また、コロナ後を見据えた事業転換やDX推進などの企業の大きな動きにより、新たなニーズに対する人材が求められています。フルタイムで働ける人材が減っていくなかで、企業は「どのような人材を採用したらよいか」という悩みが大きく、多様な人材マッチングができる派遣を、企業は人材確保の手段として活用しているのです。

雇用の「不」を解決し、企業と一人ひとりの仕事をつないでいくために…写真提供:株式会社スタッフサービス・ホールディングス

阪本耕治 Koji SAKAMOTO

株式会社スタッフサービス・ホールディングス 代表取締役社長

1996年、リクルート(現 リクルートホールディングス)入社、法務部配属。2000年に米国のeコマースに関するコンサルティング会社へ出向。帰国後、新規事業開発部門、法務部等を経て、2011年よりグローバル派遣ユニットのゼネラルマネジャーに就任。リクルートグループの米国派遣子会社にて、COO等に就任。2018年4月より現職。