新型コロナウイルス感染症の世界的拡大が私たちの働き方のスタイルをその価値観とともに変えつつあるなか、 “派遣スタッフ”を積極的に受け入れる企業が増えている。なかでも、専門的な知識やスキルを持つ人材の活躍が目立っているようだ。そうした“派遣”の就労スタイルのひとつである「ZIP WORK＊1 」とはいったいどのようなものか――運営元である株式会社リクルートスタッフィングの路川千晴さんをインタビューした。（フリーライター 棚澤明子、ダイヤモンド社 人材開発編集部）
＊1 「ZIP WORK」は株式会社リクルートスタッフィングが展開する「時短×専門性×高時給」の派遣サービス
2020年、これまで微増傾向を保ってきた労働力人口＊2 が、新型コロナウイルス流行の影響を受けて8年ぶりに減少に転じた。高齢化が進む日本の社会で長らく続く “人手不足感”は、とりわけ、正社員に関して拍車がかかっており、企業の採用担当者からは人材獲得の苦労を嘆く声が相次いでいる。その一方で、「働き方の多様化」は着々と社会に行きわたりつつあり、「フルタイム勤務にこだわらず、ライフステージに合わせて無理のない時間や望む場所で効率よく働きたい」という就労観の人が確実に増えている。こうした時代背景のなかで好評を得ているのが、ハイスキル人材の時短派遣「ZIP WORK」だ。雇用形態よりも、従業員のスキルを優先している企業と自分に合った働き方でスキルを生かしたい働き手――双方の望みが合致するZIP WORKは社会をどう変えていくのだろうか。
＊2 15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの（総務省統計局/労働力調査 用語の解説より） 労働力人口は近年増加傾向にあったが、2020年度は減少した。
ハイスキル人材の時短派遣「ZIP WORK」とは？
2015年の夏、リクルートホールディングス＊3 は“十人十色の働き方を、みんなでつくるプロジェクト”と銘打った「iction!（イクション）」を始動させた。 “育児”と“アクション”をかけたネーミングが表しているように、出産・育児を機に一度は家庭に入ったものの、再び社会に出て働くことを望む女性たちの背中を押すこと――つまり、M字カーブ＊4 の解消を目指したプロジェクトだ。ただ、そこには大きな壁があった。本人が総合職や専門職で培ってきた経験や高いスキルを持っていても、育児と両立しやすい「短時間での仕事」といえば、経験やスキルを要さないものが大半だったのだ。貴重なスキルを眠らせておくのは、本人にとってはもちろんのこと、社会にとってもデメリットでしかない。そうした状況を背景に「iction!」から誕生したのが、高いスキルを生かして短時間で働く「ZIP WORK」という概念だった。
＊3 株式会社リクルートホールディングス（本社：東京都千代田区）は、従業員138名（2021年3月31日時点）、グループ従業員4万6800名（2021年3月31日時点）。
＊4 女性の労働力率（15歳以上人口に占める労働力人口の割合）をグラフ化したとき、年齢を横軸にすると「Ｍ」字のラインが描かれる。これは、結婚・出産期に当たる年代にいったん低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという結果からである。
路川 「ZIP（ジップ）」という言葉は、パソコン作業のなかで容量の大きなファイルをコンパクトに圧縮するときに使いますよね。同じように、「ZIP WORK」は、高いスキルが要される仕事を短時間に圧縮して、それに見合った報酬を得る働き方を意味します。最初にリクルートグループ内で取り入れてみたところ非常に好評だったので、働き方の多様性を促進させるためにも社外へ広げていこう、ということになりました。そこで考えたのが“派遣＊5 という働き方への適用”で、リクルートスタッフィング＊6 で2016年9月から「ZIP WORK」をスタートさせることになりました。派遣という就労スタイルであれば派遣先企業の人事制度を受けることなく導入できるので、相性が良いだろうという予想どおり、スタート以来、順調な伸びを見せています。
＊5 「派遣」は、派遣会社（派遣元）と雇用契約を結んで、実際に働く企業（派遣先）で就業する働き方のこと。雇用主は、雇用契約を結ぶ派遣会社になるため、給与の支払い、福利厚生などは派遣会社が行う。（スタッフサービスグループ 「派遣の基礎知識」より）
＊6 株式会社リクルートスタッフィング（本社：東京都中央区)は、従業員1875名（2021年4月現在）、登録スタッフは約104万名（2021年4月現在）。
路川千晴 （みちかわ ちはる）
株式会社リクルートスタッフィング
事業企画統括部 総合戦略推進部 総合戦略企画グループ マネジャー
2006年、リクルートスタッフィング入社。新規開拓・リテールから大手アカウントにおける派遣営業を経験し、シニアプロフェッショナル、専門スキルを生かして時短で働く「ZIP WORK」など、多様な働き方の推進や総合的な営業企画を担当。2020年より現職。
