高齢化とともに有病者が増える「認知症」。わずか3年後の2025年、日本の65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されている。
現時点で認知症を根本的に治療する薬剤や手段はない。予防と進行抑制を徹底することが重要だ。
予防策の一つは定期的な運動。運動の刺激で血流が改善され神経栄養因子の活性化が生じ、脳内ネットワークの機能の向上や、脳の体積の増加が期待できる。ただ、まとまった運動時間をとることは難しい。日々の「家事」が代替手段になるようだが、本当に効果があるのだろうか。
シンガポール・老年医学教育研究所の研究者は、都市部に住む21歳~65歳未満の男女249人(平均年齢44歳、女性57%)と、65歳以上~90歳の男女240人(平均年齢75歳、女性57.1%)から、日々の家事労働や通勤、仕事時や余暇の身体活動量(PA)の情報を収集。認知機能との関連を解析している。家事については、食器洗いや洗濯など「強度が低い家事(LH)」と、布団干しや掃除機かけなど「強度が高い家事(HH)」に分類し分析を行った。
その結果、LH、HHを盛んに行っている高齢者は、認知機能検査の数値が良いことが判明した。特に、高HH群は「注意力」のスコアが低HH群とLH群より14%高く、高LH群は「即時記憶(作動記憶)」と、さっきかけた電話番号を思い出すなどの「遅延記憶」のスコアがそれぞれ12%と8%高かった。
一方、若年層では家事労働と認知機能との関連は認められなかった。研究者は「対象者の教育水準が高く、影響が顕在化しなかったのだろう」と推測している。
興味深いのは、家事労働に関する「正の影響」は、余暇の運動や移動、仕事のPAとは関係なく生じていること。段取りを考え、手際よくこなす必要がある日々の家事は、意外に「脳トレ」や「脳育て」に通じるようだ。
さて、本研究でも家事労働の担い手の多くは女性だった。男性諸氏は試しに一日の家事労働を全て引き受けてみるのはどうだろう。結構、身体も頭も使います。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)