管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

“部下の仕事量”を減らすリーダーほど、「強いチーム」をつくる理由写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「鳥の目」をもたなければ、
管理職は務まらない

「虫の目」と「鳥の目」──。

 しばしば使われる言葉ですから、ご存じの方も多いでしょう。

「虫の目」とは、虫のように近いところから対象を注意深く観察する視点であり、「鳥の目」とは、空を飛ぶ鳥のように、俯瞰的に物事をとらえる視点です。何事においても、この「両方の視点」を備えておくことが大事だというわけです。

 これは、管理職にもあてはまります。

 メンバーとの信頼関係を築き、「自走する人材」へと導くためには、「虫の目」をもってメンバー一人ひとりのことをよく知り、よく考え、じっくりと向き合っていく必要があります。特に、課長クラスの管理職は、社内で唯一、現場の一般社員と直に向き合う存在ですから、「虫の目」をしっかり持つことは非常に重要なことだと言えるでしょう。

 ただ、「虫の目」だけでは管理職は務まりません。

 管理職は、中長期的な時間軸をもって、会社全体を俯瞰しながらチームの「あるべき姿」を考える「鳥の目」をもたなければ、メンバーを適切に導いていくことができないからです。メンバーと一緒に「目の前の仕事」にのめりこんでいるようでは、管理職の役割を果たすことはできないのです。

 だから、私は、あるチームの管理職を任されたら、在任期間中にチームとして何を成し遂げる必要があるのか、その全体像をイメージするようにしていました。

 もちろん、あらかじめ在任期間が示されるわけではありませんが、私が属していた通信業界は変化が激しいため、組織変更や異動もかなり頻繁に行われていましたから、1~3年程度の在任期間を想定していました。

 そのうえで、「今、会社はどこに向かおうとしているのか?」「そのなかで、このチームが価値を生み出すためには、何をするべきか?」といったことを、できるだけ具体的にイメージします。

 そのためには、日頃から社内のキーパーソンとの接点をもって有意義な情報を得たり、経営会議に隣席する機会をつくって上層部の議論に触れたりするなど、「視座」を高める努力をしておく必要があります。

 そして、着任したときに、チームのメンバー全員と「1on1」を行って、「チームがやっている仕事」「チームの課題」などを把握することができれば、1~3年でやるべきことのイメージがだんだん見えてきますから、「何をいつまでにやるか」というスケジュールを年間カレンダーに落とし込んでみるのです。

 もちろん、最初の段階では「解像度」の低いイメージにならざるを得ませんが、それで構いません。それ以降、チームのマネジメントを実行しながら、その「解像度」をどんどん上げていくとともに、スケージュールも現実的なものへとブラッシュアップしていけばいいのです。

“部下の仕事量”を減らすリーダーほど、「強いチーム」をつくる理由前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務