管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。
事実を伝えるだけでは、
「報告」したことにはならない
メンバーから積極的にホウレンソウされる存在になる──。
これが、マネジメントの成否を左右する決定的に重要なポイントです。ただし、単にホウレンソウがされればよいわけではありません。重要なのは、メンバーに、どのような内容のホウレンソウをしてもらうかなのです。
話をわかりやすくするために、ここでは「報告」について考えましょう。
「報告」という言葉を辞書で調べると、「任務をとげたのち、その状況や結果を述べること」などと書かれているように、一般的に「状況や結果」という事実を伝えれば報告は完了と理解されていると思います。
しかし、私は、これだけでは不十分だと考えています。
本来、「ネクストステップ」が示されない“報告”は「報告」と呼ぶに値しないと思うのです。「ネクストステップ」とは、報告内容を受けて、「これからどうするのか?」を提案することです。つまり、「報告+ネクストステップ」が示されて、はじめて「報告された」と認識すべきなのです。
私がこれを教わったのは、新社会人として右も左もわからないまま働き出した頃のことです。営業担当として必死で走り回っていたのですが、ある月の売上目標未達が確定したときに、上司に正直に「◯◯円の売上未達となりました。申し訳ありません」と“報告”したのです。その瞬間、上司はクールにこう切り返しました。
上司 「未達か。で、どうするの?」
私 「あ、はい。来月は必ず達成するように頑張ります!」
上司 「どうやって?」
私 「……」
上司 「今月ショートした分はどうするの?」
私 「……」
要するに、私は何も考えていなかったのです。
ただ、悪い情報でも正直に上司に“報告”し、謝罪をする。そして、「次は頑張る」と意欲を見せれば、許してもらえると思っていたのです。結局のところ、「来月以降、どうやって挽回するか」を真剣に考えていなかったということです。
もちろん、目標未達を謝罪する気持ちは組織人として必要だとは思いますが、謝罪したからといって状況が改善するわけでもありませんし、意欲があるのは結果を出す必要条件ではあっても十分条件にはなりえません。それを上司に伝えることには、本質的な意味は何もないのです。
だからこそ、その上司は、私の謝罪や意気込みは完全に黙殺したのです。そして、私を責めるわけでもなく、ただただクールに「で、どうするの?」という問いを私にぶつけてくれたのです。いま思い出しても、少々恥ずかしくなりますが、仕事をするうえで極めて重要なことを教えていただいたと、深く感謝しています。
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務