「免疫マップ」でDXバイアスを視覚化して克服する

 では、これらのDXバイアスを自覚した後には、どのように対処していけばよいのだろうか。

 DXバイアスのような固定観念を排除していくツールとして、ハーバード大学のロバート・キーガン教授らが開発した「免疫マップ」がある。四つの項目に分かれており、各項目を自分で書き込んでいくことで、何が自身の目標実現を阻害しているのかが把握できる(図3参照)。

「改善目標」には自分が成し遂げたいことを書く。「阻害行動」には改善目標を成し遂げるのを邪魔しているような行動を列挙する。「裏の目標」には「阻害行動」の背景にある理由を考えて並べる。そして、「強力な固定観念」に書き込むのが、裏の目標を支える考え方である。

 書き終えてから見直してみると、「裏の目標」と「強力な固定観念」が、最初に書いた「改善目標」と矛盾しており、自分はそんな裏の目標や固定観念を持っていないと感じるかもしれない。しかし、これこそがキーガン教授らが「変化を阻む免疫機能」と呼ぶもので、人間なら誰もが持っている、自分を守ろうとする自然な性質なのである。

 医学的な「免疫」は、細菌やウイルスなどから体を守るために欠かせないものとされている。人間の心にもそうした免疫機能が備わっている、というのが免疫マップの考え方である。そして、医学的な免疫と同様、過剰反応をすると害にもなるということを示している。

 この免疫マップを作成するだけでも、自己内省によって変化し始める人もいる。ただし、自分を変えるというのはもちろん並大抵のことではない。

 キーガン教授らはそのための道筋を示している。本当にその「強力な固定観念」が正しいのかを、実験することによって確かめるのだ。

 私たちがDX推進を支援する企業でも、例えば「自分にはAI技術は使えない」という固定観念を持っている人にAI活用研修を受けてもらうと、「なんだ、意外に簡単じゃないか」といった反応が返ってくることが多い。すると、それからはDXに好奇心を持って取り組むようになる。

 このように、免疫マップは自分の中に潜んでいるDXバイアスを視覚化し、克服する強力なツールになるので、ぜひ試してみていただきたい。